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最悪な感触
 
逆さづりのままのサンダースを、
バンギラスはゆらゆらと揺らしながら睨んでいる。
ぎろりと鋭くつりあがった威圧感のあるその目つきは、
正直いってとても怖い。

バン「おいコラ、なんか言ったらどうだ。」

低く唸るような声でバンギラスがサンダースに話しかける、
何か喋った方がいいのだろうが、
怖くて口が引きつりうまく声が出てこない。

ダース「えっとあの…ごめんなさ…。」
バン「ああ? 聞こえねえよ、もっと大きな声で話せ!」

こっちがしゃべっている途中なのに、
機嫌悪そうに大声を上げられた。
かと思うといきなりバンギラスは腕を上下にぶんぶんと振り、
サンダースの体ががくがくと激しく揺れる。

ダース「うわ…うっぷ、やめ…!」
バン「あ~あ、
   たくこっちはイライラしてるってのになんでこんな奴と戯れてなきゃなんねえんだよ…。」

サンダースの体を揺さぶりながら、
バンギラスはぶつぶつと独り言をつぶやく、
どうも本当に機嫌が悪いらしい。

しばらくすると、
ようやくバンギラスは腕を振り回すのをやめ、
サンダースの体がぐったりとぶら下がる。
クルクルと世界が回るような感じになり、
ものすごく気分が悪かった。

バン「まあ、こんくらいで勘弁してやるか。」

バンギラスがつぶやいた言葉にサンダースは僅かに希望を取り戻す。
こんな恐ろしいポケモンにこれ以上絡まれていたら、
命がいくつあっても足りやしない、
逃がしてくれる気があるうちにさっさと謝ってここから立ち去った方がよさそうだった。

ダース「…えっと、本当にぶつかってすいませんでした」
バン「お、ようやく謝ったか。それでいいんだよ、それで。」

気分よさそうにバンギラスが一人でうんうんと頷いている、
あんなに振り回されていては謝るに謝れないんじゃないかと思ったが、
そっとその言葉を心にしまい込む。

ダース「あの…じゃあオイラはこの辺で…。」
バン「ん、おお…そうだな………まてよ…。」

バンギラスは一瞬彼の体を地面に降ろそうとするが、
急にまたひょいと持ち上げてしまう。
何が何だか分からず彼はバンギラスを見上げるが、
バンギラスは何か思いついたようににたーっとこっちを見ている。

ダース「えっと、まだ何用…?」
バン「ああ、ちょっとお前に用を頼みたいんだ…。」

気のせいか若干バンギラスの声のトーンが下がったような気がする、
そしてこれも気のせいか彼の眼が妙にギラギラと輝いてサンダースを見ているような気も…。

バン「実はな、俺はちょっとここで仲間と待ち合わせをしてるんだ。」
ダース「仲間? 待ち合わせ?」

早く解放してほしいが、
なんとなく気になるので聞き返してしまう。

バン「そう、仲間だ。今そいつはこの森の中に食料を探しに行ってるんだがな…。」
ダース「しょくりょ…う…!?」

語りかけてくるバンギラスの目が怪しく輝き、
反射的に逃げようと体をよじろうとした瞬間、
急にサンダースの体がぎしっと強張るように固くなる。

驚いてぶら下がったまま手足に力をこめるが、
まるで体中が石にでもなったかのようにうまく手足が動かない。

ダース「なに…これ…!」
バン「【こわいかお】って技だ、これでお前はもう俺からは逃げられねえ。」

かかった相手の動きを遅くしてしまう技【こわいかお】、
サンダースは気付かないうちに体の自由を失ってしまっていた。

ダース「なんで、いきなりオイラにそんな技を!」
バン「まあ慌てるなよ、で頼みたい用事なんだけどよ…。」

動きにくい手足で手足をよじろうとするが、
バンギラスは彼の体を回転させ、
彼の目と自分の目が向きあうようにする。
表情こそにぃっと悪そうに笑っているが、
さっきの怒っていた顔なんかよりも楽しそうにしている顔と、
さっきよりもずっと低い声で彼に話しかけてくる。

バン「ずいぶん待ったんだがなかなか帰ってこねえんだ…、だからちょっとお前に…。」
ダース「ひっ…!」

あまりの恐ろしい光景と言葉に思わず目をつぶり、
耳をペタンと伏せる。
手足がカタカタと細かく震え、
こわばった体に恐怖が伝染していく。

突然べろっと何かが彼の頬を濡らす感触がして、
彼は驚いた拍子にそっと目を開けてしまう。

バン「俺の腹を満たしてきてもらうぜ…!」

目を開けた彼の眼に映ったのは、
分厚く太くくねらせた舌を口の中でちらつかせ、
邪悪な笑顔で彼を見ているバンギラスの姿だった。
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【最悪な出会い】
 
正直いって今日のオイラは本当についていないと思う、
よく人生で最悪な日が一度は訪れるって言うけど、
オイラの場合はまさに今日のことだと思うよ…。

街道から外れに外れた深い森の獣道、
その道を一匹の『サンダース』が無我夢中に駆け回っていた。
妙に体中が薄汚れており、
まるで追いかけられているおたずねもののように、
何かから逃げようと必死に走っているようだった。

ダース「はぁ…はぁ…ぜえ…ぜぇ…!」

しばらくして、
やっと彼は一本の太い木の下で呼吸を整えるようと立ち止った。
むちゃくちゃに走り回ったせいか喉が焼けるように痛みを訴え、
体中がかーっと熱を持って暑くなっていた。

ダース「ずいぶんと…走って…きたな…。」

苦しそうに舌ベロをべろんと外に垂らして、
はぁはぁと呼吸をしながらサンダースは自分の駆けてきた森を振り返る。
うっそうと茂った森の奥からは、
時たま吹いてくる心地よい風以外何も折ってくるものはないようだ。

ダース「…ふぅ。」

何も追って来ていないことに安心した彼は、
無意識に腰の方に前足を伸ばすが、
伸ばした手はすかっと空を掴む。

ダース「へ…。」

ぽかんと呆けていた彼だが、
慌てたように自分の体中を確認する。
体中のあちこちに泥やら草がこびりついているのは無視し、
彼が身に着けていた道具は、
地図から食料からすべて無くなっていた。

ダース「もう…なんなんだよ…。」

がっくりと頭を下げ、
彼は途方に暮れたように木に腰かけた。

ダース「ああ…なんでこんなことになっちゃったんだろ…。」

ぼんやりと彼は今日の間に起こったことを思い返していた。

そもそも彼は『旅人』であった、
いや正確には今日から『旅人』になったのである。
外の世界に憧れて村の若者が旅立っていく、
それだけ見れば彼も他の旅人となって出て行った友人達と別に変わらない、
変わっていたのは村から出た後だった。

とりあえず街に行こうと街道を進もうとしていたが、
ふと地図を見ると、
彼の村からは外れの荒地を通って行った方が街までの距離が近いことに気づき、
浮かれた気分で荒れ地の方へ進んでいった。

そこが彼の不運の始まりだった。

気分よく荒れ地を進んでいた彼だったが、
突然どろっとした液体が彼に命中し、
驚いた拍子に地面に倒れ込んでしまう。
何とか体勢を立て直そうと立ち上がろうとするが、
どくにでもかかったらしく頭がふらふらとしてうまく立ち上がることができない…。

そのうち一匹の『ゴクリン』が岩の陰からのっそりと姿を現した、
ゴクリンはゆっくりとした動きで彼のそばまで近寄ると、
信じられないくらいに口を大きく開け、
サンダースの足にバクッと喰らいついたのである。

みるみるうちにゴクリンの体の中に吸い込まれていき、
彼は必死に地面をひっかくがその程度ではゴクリンの飲み込むスピードは落ちてはくれず、
結局彼は丸ごとゴクリンの中にすっぽりと収まってしまった。

ぐにゃぐにゃと蠢くゴクリンの体の中で、
必死に身をよじったり前足を口から突き出したりと暴れるが、
一向に吐き出してはくれなかった。
夢中で得意技の【スパーク】を連発していなかったら、
今頃ゴクリンの中でとろとろに溶かされて栄養になっていたかもしれない。

ダース「うえ…。」

思い出すとぞーっと背筋が寒くなり、
サンダースはさらに記憶を思い返していく。

ゴクリンから吐き出されたものの体中が【ヘドロえき】でべちゃべちゃになり、
どく状態のひどい気分の中動くこともできず、
彼はぐったりと地面に横たわっていた。

すると突然空から何か巨大で白い体のポケモンが彼のそばに降り立ったかと思うと、
彼の体をひょいっと持ち上げ問答無用で口に放り込んだのである。
ぐじゅぐじゅと唾液で彼についたヘドロを舐め落とし、
ろくな抵抗もできないまま彼は暗い喉の底に飲み込まれてしまったのである。
しばらくは食べられたことに気付かなかったが、
何か無茶苦茶に暴れまくって知らないうちに気を失ったような気がする…。

ダース「なんだったんだあれ…。」

正直なところ思い出せるのはそこまでで、
気がついたらいつのまにか外に吐き出されていたのである。
訳も分からずぼんやりとしていたら、
突然またあの白い悪魔のようなポケモンが目の前に出てきて、
その場から慌てて飛び出してきて森中を無作為に走りまくり、
そして今に至るのである。

ダース「我ながら情けないな…。」

いつ荷物を落としてのか分からないが、
とにかく地図も食料もないんじゃ街にたどり着くことはできない。
むしろ最悪この森から出ることさえ、
できないかもしれない…。

ダース「最悪だ…。」

ずーんと落ち込んだように、
サンダースはさっきよりも肩を深く落とす。

…がさ!

びくっとサンダースの首が跳ねるように起き上がる、
今確かに何か不自然な物音がしたように思えるが…。
そぉっとサンダースは後ろを振り向いていき、
近くの茂みをゆっくりと観察していく。
すると、
ひとつの木の茂みから彼の方をうかがうように見ている赤い目が二つ、
彼の方をじーっと見ていた。

ダース「うわあああ!!」

びっくりして彼はまたその場から弾かれるように走り出した、
冷静に考えれば別に彼に敵意があるかどうかなんて分からないし、
慌てて逃げることもないのだが。
ただでさえ今日は朝からひどい目にあっており、
彼の神経もずいぶん過敏になっているようだった。

道なき道を走りまくり、
茂みの中を突っ切っていくと急に視界が広く開けた、
どうやら無我夢中に走っていたものの、
運よく街道まで出ることができたようだった…がしかし。

べちゃあ…!!

ダース「…ぶっ!?」

視界が開けたと思った瞬間に、
彼の顔は何か固い壁のような物に勢いよくぶつかった。
受け身の姿勢など取れるわけもなく、
彼の体は壁を這うようにずるずると滑り落ちていく。

ダース「いってぇ…。」
バン「いてぇのはこっちのセリフだ!」
ダース「…は?」

急に壁から声が聞こえ恐る恐る上を見上げると、
たくましい体つきをしたバンギラスが一匹、
彼を睨みつけるように見下ろしていた。
どうやら彼が壁だと思って勢いよくぶつかったのは、
このバンギラスの背中だったらしい。
サンダースが何かを言う前に、
バンギラスの太い腕が彼の足首をつかみ、
彼の体をひょいっと持ち上げてしまう。

ダース「あ…や…その…。」
バン「人にいきなり【たいあたり】するとは、なかなかいい度胸だなオマエ…。」

『野生』のポケモンとは違った様子で、
おしゃれなのか腕にぐるぐると布を巻きつけているが、
明らかに怒ったような目つきでサンダースを睨みつけていた。

彼の最悪はまだ始まったばかり。
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★ プロフィール
HN:
森クマ
性別:
男性
自己紹介:
展示するのも恥ずかしい物しか置いていませんが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
(・ω・)

諸注意:
初めてきてくれた方は、
カテゴリーの『はじめに』からの
『注意書き』の説明を見ていないと
色々と後悔する可能性大です。
(・ω・´)

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更新日 2014年  1月17日
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