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僕の触れた手の先、
そこには変わり果てた仲間の姿があった…。
柔らかにふさふさとしていた毛はどろどろに汚れ、
見慣れていた顔はあちこちについたヘドロで覆い尽くされ、
わずかに隙間から見える目は白く濁り、
まるで僕を責めるようにじっと見つめていた…。
声が出なかった、
涙も出なかった。
たださっきまで一緒に歩き、一緒に戦い、
一緒に笑い合った仲間達はもうこの世界にはいないということ、
その否定することのできない事実を受け入れたくなくて、
頭の中が真っ白になる。
僕が逃げなければ助けられたのだろうか…。
あの時たとえだめだと理解していても助けに飛び込んでいれば、
こんな悲しい顔をした最期を迎えさせることだけでも、
それだけでも回避できたかもしれないのに…。
「ごめんなさい・・・。」
僕の口から懺悔の言葉が漏れる、
それはまるで呪詛のようにぽつりぽつりと紡がれていく。
もう手足の感覚はない、
いつの間にか息の仕方も分からなくなってきている。
だけど僕は謝るのをやめない、
自分の体からしゅうしゅうと煙が立ち上がり、
鈍い痛みが僕の体を侵食していっても、
謝り続けることだけはやめない。
これが僕の罪、
仲間を見捨て一人だけ逃げだそうとした、
愚かなリーダーへの罰だから…。
※
勢いよく飛び出し、
ルカリオはベトべタ-達の群れを飛び越えると、
渾身の力でベトベトンを蹴り飛ばした。
すさまじい衝撃とともに、
ベトベトンの体が横へと吹き飛ばされ、
壁に激突する。
ルカ「やったか…、いや…。」
ルカリオは手足をぐっと身構えるように構え、
敵の反撃に備える。
ベトベターに打撃攻撃が効いていなかったように、
ベトベトンにもパンチやキックの類の攻撃は効いていない可能性がある。
ずるぅ・・・…
ルカ「・・・!」
思ったとおりというべきか、
ベトベトンは驚いてこそいるものの、
大したダメージを受けている様子はない。
それに、
いきなりの彼の登場に驚いていた周囲のベトベター達も、
彼を侵入者と認識したのか一斉に取り囲まれるように包囲される。
ルカ「くっそー…。」
ルカリオの頬に冷や汗が流れる、
なにせ物理系の攻撃が効かないとなると、
かくとうタイプである彼に出来る反撃の手段はほとんどない。
いつもなら打撃が効かない相手には、
『きのえだ』や『ゴローンのいし』などの攻撃用の道具を使うのだが、
さっきの戦いでベトベトにされてしまい使うことができなくなっていた・・・。
ぶんっ…!!
ルカ「うおっと…!」
ベトベター達から容赦なく【ようかいえき】が吐きかけられ、
ルカリオはそれらを慌てて回避する。
やはりこれだけの数を一度に相手をするには無理があった…。
べぇぇとぉぉ~~-・・・…!
突然親玉であるベトベトンが大きな唸り声をあげ、
ルカリオにしきりに攻撃をしていたベトベター達が一斉に攻撃の手を止めた。
ルカ「・・・え?」
彼が驚いて振り返ると、
ベトベトンは手下たちの間をかき分けて輪の中に入り、
まるでこちらを威嚇するように大きく伸び縮みをしはじめる。
ルカ「戦えって言ってるのか…。」
どうやらふいうちでルカリオに攻撃されたことに腹を立てているらしく、
威厳を見せつけるためにも一匹で戦おうとしているらしい。
これはルカリオにとってもチャンスだった。
一対一とはいえ、
進化しているベトベトンの能力はベトベター達とは比べ物にならないくらい高い、
その上ルカリオの攻撃がほとんど効かない以上、
勝てる見込みはかなり低いだろう…。
でも、
勝つのは無理でも呑みこまれた仲間を助け出すくらいならなんとか…。
ルカリオはちらりとベトベトンの腹を見つめる、
大きくふくらんだ液状の腹の部分に、
ぽっこりとふたつ丸く出っ張った部分ができている。
間違いなく彼の仲間達はまだそこにいる…。
ルカ「かならず、必ず助け出さないと…。」
覚悟をきめルカリオは挑発を受けるように拳を構える、
するとベトベトンがその大きな体で猛烈に突進してきた。
すんでのところで攻撃をかわし、
彼は掴みかかるようにベトベトンの腹に手を突っ込む。
ルカ「うえ…。」
彼の手にどろりとしたなんとも言えない感触が伝わり、
ねちゃねちゃと不気味な音が耳に聞こえる。
だが僅かだが、
腹の奥にベトベトンのものとは違うかたい感触に触れた…。
ルカ「見つけ…・・・たぁっ!?」
仲間を引っぱり出そうと隙を見せた瞬間、
ベトベトンの太い腕が彼の顔を力強くはたき、
先ほどのお返しといわんばかりに彼を素早く掴みあげ投げ飛ばす。
ガシィッ……!!
ルカ「アガァッ…!」
すさまじい勢いで壁に叩きつけられ、
ルカリオの体はずるずると壁を伝い床に崩れ落ちる。
ダメージを受けるルカリオにベトベトンは追撃をかけるように、
ヘドロのたっぷりつまった球状のエネルギーをルカリオに向けて投げつけた。
ルカ「くぅ…アグッ…!?」
あまりにも素早い迎撃に、
ルカリオはかわすこともできずにまともにその技を受けてしまう。
【ヘドロばくだん】と呼ばれるその技は、
どくタイプの中でもかなり強い威力を秘めた技であり、
ルカリオの体力が一気に削られてしまった…。
ルカ「あぅ…げほ……。」
体中に走る鋭い痛みに、
彼は立ち上がることもできず呻くことしかできない。
幸いはがねの力を持った彼にどくの技は対して効かなかったものの、
ベトベトンの攻撃の威力があまりにも強く、
もしかしたら当たり所すら悪かったのかもしれない・・・。
おおおぉぉ~~-……!!
ベトベトンはその様子を見て勝利を得たと思いこんだらしく、
大きい腕をあげて自分の力を誇示するかのように吠え声を上げると、
手下達もそれにつられて大きな歓声をあげていた。
ルカ「くっそぉ……ん?」
悔しそうに顔を歪めるルカリオの手に、
ふと何か固い感触のものが触れた…。
ルカリオが自分の手に目線を落とすと、
見慣れた手帳のようなものが彼の手に触れていた…。
ルカ「これって…。」
それは『探検の記録』と呼ばれる探検隊なら誰しも持っている道具だった、
この手帳は持ち主たちの探検中の経験や思い出を自動で読み取り書き記す力を持っていて、
いうなれば一種の日記のようなものだった。
ルカ「なんでこんなものがこんなとこに…。」
見てみると部屋の隅には彼の持っているものと同じような探検バッグや、
その他色々な鞄や袋などが所狭しと積み上げられていた…。
ルカ「まさか…、奴らの犠牲者のものか…。」
そこに積まれているのは、
こいつらの『食事』にされてしまったポケモン達の遺品。
どうりで誰も立ち寄らないはずである、
立ち寄った者達が帰ってこれなければ、
誰もここに来ただなんて他の物に伝えられないのだから…。
ルカ「僕達ももうじき…。」
ルカリオは唾をごくりと飲み込む、
このままでは本当に助けることもできないまま、
この荷物の持主たちと同じ末路をたどることになる…。
ルカリオは戦いの間もずっと手に握りしめていたふしぎだまを見つめる、
カメールから託された最後の希望。
依頼品であるということにすこしためらいがある物の、
今はもうこれを使うしか助かる可能性は残されていない・・・
ルカ「くっ、くら…・・・!?」
ふしぎだまを使おうとした瞬間、
ルカリオに奇妙な感覚が走った。
いつもなら簡単に力を発動させるふしぎだまの扱い方が、
まるで一瞬のうちに忘れてしまったとでもいうかのように思いだせないのである…。
ルカ「え…なんで…!?」
ルカリオは頭の中で何度も念じて力を使おうとする、
しかしふしぎだまは一向にその力を発揮してはくれなかった。
絶望の表情を浮かべてルカリオがふしぎだまを見つめていると、
ずるずるという聞き慣れてしまった音を響かせて、
ベトベトンが彼の前に立ちふさがった。
ベトベトンの顔には醜悪な笑みが浮かべられており、
その腕からは不思議なオーラが立ち上り、
ルカリオの体を包み込んでいた。
やられた…!
【さしおさえ】、
手持ちの道具が使えなくなってしまう技、
知らないうちにルカリオはその技の支配下に置かれてしまっていたのである。
いつでも発動できるようにと、
ふしぎだまを持ち続けていたことが、
ここでまさかの最悪な判断ミスとなってしまった…。
ルカ「うあ…うあああ……。」
ルカリオの歯がカチカチと震え、
持っていたふしぎだまと手帳をぎゅうっとにぎりしめて、
舌なめずりするベトベトンを見つめる。
終わった、
もはや反撃する体力も、
唯一の希望だった道具も使用できなくなり、
彼に残された手段は本当に0となってしまった…。
絶望に沈むルカリオの体を、
ベトベトンは獲物を見つめる目つきでじぃっと見つめる。
そしておもむろに口を大きく広げると、
彼の頭を覆い隠すように顔を近づけてきた。
ルカ「あ…ああ…・・・。」
じわっと目尻に涙が浮かび、
恐怖のせいで体全体が弛緩してしまったかのように力が入らない、
だがベトベトンの口の奥にかすかに赤い炎が見え、
彼の意識が一瞬正気の物に戻る…。
ルカ「あ・・・。」
バクンッ……!!
彼が口を開きかけた瞬間、
ベトベトンの口が彼の体を包み込み、
凄まじい悪臭とべっとりとした液体の感触が彼の意識を侵食していく。
ルカ「うむぅ……むぅ…。」
ルカリオの鼻や口にベトベトンの肉体が張り付き、
呼吸をすることさえできなくなるが、
彼は残った目で必死に仲間の姿を探す。
ルカ「むぅ・・・…、むぁ…!!」
ぐにゃぐにゃと蠢く口内の中で、
突然ルカリオの体が何者かにつんつんとつつかれる。
振り向くと、
ライボルトとリザードの二匹がぐったりと横たわりながらも、
ルカリオに手を伸ばし笑みを浮かべていた。
ルカ「・・・!」
ライ「なんだ、けっきょくお前も飲み込まれちまったのか…。」
リザ「ごめんね、僕らのせいでルカリオまで…。」
ルカリオの目からぽたりと一粒の涙があふれる、
ふたりとも疲れ果て見るも無残にべっとりと汚れているものの、
こうして生きた姿でもう一度会うことができたのが何よりも嬉しかった。
ライ「おい泣くなよ、まだ無事に脱出できたわけじゃないだろ・・・!」
それでもルカリオはぽろぽろと涙を流す、
まるで止め方を忘れてしまったように泣きじゃくってしまった。
だが彼の涙に洗い流されたのか、
彼の口と鼻を塞いでいたヘドロがトロトロと溶けるように流れていった…。
リザ「あはは…、ルカリオがなくとこなんて初めて見たよ。」
ルカ「うるさいな…、心配したんだから…!」
ぐしぐしと涙を拭き、
ルカリオはふたりの無事をもう一度確認する。
二匹ともやはり彼と同じくダメージが酷いらしく、
ライボルトは体中をベトベトンに包みこまれ、
リザードはどくを受けているのかぐったりと横たわったまま会話するのも苦しそうだった…。
突然ベトベトンの体内がぐにゃぐにゃと動きはじめ、
彼ら三匹の体を口の奥に運ぼうと、
大きな舌べろがうねうねと蠢きだした。
ライ「く…、どうやら本気で消化活動を始める気みたいだな…。」
リザ「やっぱり、ここまでなのかな…。」
ルカ「…いや。」
すぅっとむっとする空気を吸い込み、
少しでも心を落ち着けようとルカリオは思考を探る。
確かにさっきまでは本当に心細かった、
一匹では何もできないということを思い知らされた気さえする。
だけど今なら一匹じゃない、
まだ何か手は残されているはずだった…!
ルカリオは握りしめていたふしぎだまを前にかざす、
リザードとライボルトはそれを不思議そうな表情で見つめた。
ライ「これは…?」
ルカ「ここから脱出出来るかどうか、全部このたまに賭けられてくる…。」
ルカリオはカメールの言葉を思い出す、
必ず力になってくれると言っていた玉、
ひとつは彼の力、
もう一つは仲間全員を助ける力、
それぞれの力が込められていると…。
ルカリオは簡単にだが二匹にそのことを説明する。
だけど、
今この状況でどちらを使えばいいのか彼には分らない、
分かったとしても彼には【さしおさえ】のせいでこのたまを使えない…。
使えるとしたら目の前にいる仲間たちだけ…。
だんだんと体内の動きが活発になってきていて、
あの【ようかいえき】もぽたぽたと分泌され始めてきている。
もうあまり時間は残されていない…。
ルカリオは少し迷った挙句、
リザードにふたつのふしぎだまを手渡す。
リザ「うえ…!?」
ルカ「リザード、君が決めてよ。」
リザ「え、なんで僕なの…!」
ルカ「ライボルトの今の状態じゃふしぎだま使えない…。」
ライ「…まあな。」
ライボルトは憎々しげに自らを包む肉体を睨みつける、
体力を使い果たした今の彼にはこれをどけるだけの力は残っていないだろう…。
ルカ「だからリザード、君に全部任せるよ。」
ライ「恨みっこなしだ、早いとこ決めてくれ…。」
リザ「そ、そんなぁ…。」
ルカリオは心の中でリザードに謝る、
彼がこういう重要な決断を任されることを苦手にしていることは今の様子から見ても分かる、
だが今は時間がない。
リザ「…本当にうらみっこなしでいいんだね…?」
ルカ「うん。」
ライ「ああ。」
ルカリオとライボルトはリザードの言葉にうなずく、
どんな結末になっても後悔などしない、
強い信頼を彼はリザードに示した。
リザ「じゃあ、いくよ!」
そう言ってリザードは片手にあるふしぎだまを高く掲げあげ、
ふしぎだまの力を解放するように強く念じた。
※
その瞬間にふしぎだまから淡いブルーの光が解き放たれ、
彼ら三匹を包み込むように不思議な魔力が空間に満ちるのを感じる。
刹那、
彼らの頭上、
ベトベトンの頭の上から激しい水流が轟くような轟音を響かせ、
部屋全体を洗い流すかのように水が駆け抜けていく。
これに驚いたのは直撃を受けたベトベトンである、
いきなり激しい水流に体全体が叩き潰されたかと思うと、
水に洗い流されるように彼の体が徐々に小さくなっていく。
他のベトベター達もその水流の出現にパニックになったのか、
彼を見捨ててどんどん部屋の中から逃げ出していく。
彼も早くこの部屋から逃げ出したかったのだが、
お腹の中に詰め込んだ三匹の重さが仇となり、
見る見るうちに彼の体が溶けて流れ去っていく。
おおぉぉおおぉおぉおぉぉ…………。
ベトベトンの絶叫のような悲鳴が部屋中に響き渡り、
彼の体は綺麗に水流に洗い流され溶けていってしまった。
※
部屋の支配者が消えた中、
かつての主がいた場所に、
三匹のポケモンがぐったりとそろって倒れている。
彼らはまるでで互いを信頼し合うかのように、
薄暗くにごったふしぎだまを握りしめたまま気絶していた…。
気づいた時にはもう手遅れだった…。
うなだれ力の抜けていた僕の体に、
覆いかぶさるようにどろりと奴の液状の体が覆いかぶさってくる。
抵抗する間もなく僕の体は完全に呑みこまれ、
ぺっとりとした奇妙な感触が体中にまとわりついてくる。
もがいたところでこいつから逃れるすべはない、
むしろ僕にはもうもがく気力すら残ってはいなかったのかもしれない。
こいつの毒気にあてられたのだろうか、
だんだん息が苦しくなってきて、
それに胸も締め付けられるような気がして、
なんだか切ない気持になってくる。
しばらく揉み解されるようにこいつの体の中でぐにゃぐにゃと動かされ、
上も下も分からなくなり、
気分が悪くなる。
ふと、
僕の手に何かなにか柔らかいものが触れたような感触がした…。
※
どれくらいの距離を走ったのだろうか、
長く伸びている水路をたどり、
ずいぶんと下水道の奥まで走ってきたように思える。
ルカ「そろそろ一番奥まで来てもいいと思うんだけど…。」
疲れを見せながら、
ルカリオは一度呼吸を整えるためにゆっくりと走るペースを落としていく。
体力には少しは自信があったものの、
ずいぶんと長い距離を走ったためか膝がじんじんと熱を持っている。
ルカ「はは…、意外と体力が無いもんなんだなぁ…。」
足を止めないようゆっくりと歩きながら、
ルカリオは自嘲気味に呟いた。
ルカ「バトル続きの依頼とかもあったのに、
こんな疲れたことなんてずいぶん久しぶりな気がするな…。」
彼はそう言うと探検バッグについた探検バッジをちらりと見る。
銀色に鈍く輝くシルバーのバッジは、
彼と彼の仲間達が積み上げてきた思い出がたくさん詰まっているような気がし、
彼ら三匹にとっての一番の宝物であり、
大事にしてきたバッジである。
ただその仲間達を失った今、
いつもならキラキラと輝くいて見えるそのバッジも、
なんだか濁んだ輝きに見えてしまった。
ルカ「そっか、今までこんな風に長く別れることなんてあんま無かったからな…。」
仲間とはぐれて一人になった今、
彼は自分の力量のなさを再確認していた。
今まではチームのリーダーとして、
仲間達と依頼の遂行や探検隊としての仕事などで忙しく立ち回り、
あまりじっくりと自分の役回りを考えたことなどなかった。
だがよくよく考えてみると、
彼にはリザードやライボルトのような特筆した能力というのが、
いま一つ思いつかない。
確かにそこそこの攻撃や守りは出来るのだが、
ライボルトのような素早い先制攻撃も、
リザードのような守りから攻めに転じるようなうまい戦い方もしたことがない。
そういったものを仲間たちに任せ、
せいぜい彼がしていたことといえば仲間たちの後ろにまわって、
ちまちまと作戦や攻撃方向を指示していたぐらいである。
ルカ「…我ながら情けないな。」
考えれば考えるほど、
彼一人では何もできない気がしてくる。
カメールに大見得を切ったものの、
実際なにも作戦などは考えてもいないのである。
ルカ「だけど…。」
彼はバッグの中からみっつのふしぎだまを取り出す。
ひとつは使われくすんだ色をしていたが、
後のふたつはキラキラと暗い水道内でも淡く光っていた。
カメールが託してくれた最後の希望、
それにきっと仲間達も彼が助けに来るのを待っているはずである。
泣き言を言っている暇なんて無かった。
ルカ「急がないとね…!」
そう言って彼は再び水路をたどって走って行った。
※
しばらくして…
ルカ「…見つけた。」
ルカリオはゆっくりと立ち止まり、
道の奥を見つめる。
水路の終わり、
壁の奥からゴウゴウと水が流れ出し、
彼のたどってきた水路に水が溢れんばかりに流れ出ている。
おそらくどこかの川から入ってきた水が、
この下水道へと流れ込んでいるのだろう。
水が流れ出す大きな暗いトンネルの横に、
これまたひときわ大きく作られたパイプが壁を貫通するようにくくりつけられている。
そしてそのパイプの床には、
あのベトベター達の這ったような跡や、
大量の水たまりがパイプの中へと続いている…。
ルカ「…。」
ルカリオは静かにパイプに近づき調べてみる。
彼の背丈でも這って進めば何とか進めそううな大きさだが、
どうしてもお腹や足がびちゃびちゃに汚れてしまうだろう。
それにもしもこのパイプの中であいつらと鉢合わせをしようものなら、
反撃する間もなく彼も奴らに取り込まれてしまうことになる…。
ルカ「…ふぅ、イチかバチかってやつかな。」
ルカリオはにっと軽く笑みを浮かべると、
意を決してパイプの中に潜り込んだ。
下水道よりも臭いがこもるせいかむっと息苦しく、
悪臭と呼ぶにふさわしい臭いが刺すように鼻をついた。
顔を歪めながらも臭いに耐え、
ルカリオはずるずると這いながら足を進めていく。
すると、
それほど進まないうちにパイプの奥から何か蠢くような音が聞こえてくる。
ずる……ずる……ぴちゃ…ずるるっ……
聞き覚えのある音にルカリオの体がぎしっと強張る、
まぎれもないベトベター達の蠢く音だった。
パイプの中で聞くせいか敵の動く音が重なり合い、
正確な数は分からないが、
それでも一匹二匹で動くような音出ないことは分かった。
ルカ「一体、何匹いるんだ…。」
ルカリオはさっきよりも慎重にパイプを進み、
絶対に音をたてないように気をつけながら先を目指す。
やがてパイプの奥から、
ぼんやりと光る出口のようなものが見えてきた。
ルカ「…。」
彼はそろりそろりと光に近づき、
パイプの出口からそっと外の様子を覗き見る。
そこは地下にできた四角形の小さな小部屋のようで、
どうやらベトベター達の住処らしく、
何匹ものベトベターがひしめき合うように部屋の中に押し込まれていた。
ルカ「うわぁ~…。」
予想はしていたものの、
やはりかなりの数の敵がいるようである。
さすがにこの数では、
たとえふしぎだまの力があったとしても、
彼一匹ではどうすることもできない。
いやむしろ、
ただの依頼品だったこのふしぎだまが果たして攻撃用なのか、
それとも補助のような力を持ったものなのかも分からないのである。
ルカ「でもあの人はかならず役に立つって言っていたし、
信じる価値はあるよね…!」
ルカリオは探検バッグのなかのふしぎだまをそっととりだす、
使いどころが分からないものの、
いざという時のために手で持っていたほうがいいと思ったのである。
ルカ「とにかく何とか隙を見て………!」
部屋の中をうかがっていたルカリオは思わず目を見開く、
部屋の奥、
ベトベター達が取り囲むようにしてできた一部の空いた空間、
そこにリザードとライボルトがぐったりした様子で倒れているのである。
ルカ「…。」
仲間の無事な姿を見て、
ひとまずルカリオはほっとあいたように胸をなでおろす。
二匹ともまだ完全に助け出したわけではなかったが、
それでも無事な姿を確認できたのである。
ずるぅ…ずるる……ずるずる………
ふいに部屋の奥から何か巨大な物体が這いずり出るように出てきた。
ルカリオが様子を見ていると、
他のベトベター達よりもひときわおおきなポケモン、
『ベトベトン』が倒れる二匹を見下ろすように出てきたのである。
ベトベトンはベトベター達に力を誇示するかのように腕を高くあげ、
ベトベター達も唸るような鳴き声でベトベトンに応える。
どうやらあのベトべトンがあの群れのボスであるようだった。
ルカ「く…、この数に加えて進化系までいるのか…。」
先ほどの安堵感が、
ベトベトンの出現によっていっぺんに吹っ飛んだ。
見た目こそそこまで変わらないとはいえ、
進化前のベトベターと進化後のベトベトンではその能力は雲泥の差がある。
ましてや大量のベトベターだけでも厄介なのに、
ベトベトンまで現れてしまってはやはり正面からバトルを挑むのは、
どう考えても無謀であった…。
ベトベトンが紫色の大きな舌べろで舌なめずりをすると、
他のベトベター達もまるでベトベトンを崇拝するかのように、
伸びたり縮んだりを繰りかえし、
二匹をずりずりと親分の前に差し出そうと押していく。
ルカ「く、まずい…!」
ルカリオの中に葛藤が生まれる。
今ここで助けに飛び出さなくては、
まちがいなく仲間達はあのベトベトンに呑まれてしまうだろう。
しかし、
あれだけの大群衆がいる中に飛び込めば、
二匹を助け出す前に彼もあいつのお腹に収まることになってしまう…。
ルカ「うぅ…、一体どうすれば…。」
彼は歯を食いしばりながら迷う。
そうこう言っているうちに、
ベトベトンがライボルトとリザードの上にゆっくりとのしかかり、
二人を徐々に体内に取り込んでいく。
にゅる…にゅるにゅる……ぐにゅぐにゅ……
ライボルトの鮮やかな黄色い体が、
ぐにゃぐにゃと蠢くベトベトンの肉体に飲み込まれるように消えていき、
無防備に引きずり込まれる彼の体がピクピクと動く。
そしてリザードの体もにゅるにゅるベトベトンにと包み込まれ、
まるで敵と同化するかのようにその境目が不明瞭なものになっていく。
気絶しながらもその顔は苦しそうに歪んでいた。
ベトベトンの体からもあのしゅうしゅうという溶かされる時の音が聞こえてくる、
二匹を体内に取り込みドロドロに溶かして養分にする気のようであった。
ルカ「う…うう…!」
悲痛に響く消化の音に、
ルカリオの理性は限界まで達していた。
ルカ「やってやる、これ以上我慢できるかぁ!!」
彼はそう叫ぶとパイプの中から飛び出した、
正直作戦も勝機もない戦いである。
それでも仲間を救うためにも、
もう迷ってなどいられなかった。
彼の瞳は、
覚悟の決まった戦士の目をしていたのだった…。
なんというかありがとうございます。
若干寝不足以外の体調異常は出ていませんので、
一応ご安心を。
でもなんだかこうして気遣って頂くのって初めてなので、
なんかとっても幸せでございます。
お言葉に甘えて今日はゆっくり休まさせていただきます、
更新楽しみにされてる方はゴメンネ、
その分明日は気合入れて書きますよ。
くおりてぃに変化があるかどうかは不明ですが…。(マテ
皆さん、
お気づかいどうもありがとうございました!
(・ω・)
いつの間にか僕は真っ暗な水路の中をひとりぼっちで歩いていた。
足が棒のようになるほどカチカチに疲れ切り、
体を引きずるようにしてそれでも歩くのをやめなかった。
僕は何のために歩いてるんだっけ…?
なんでこんなに疲れていても止まらないんだっけ…?
頭の片隅でそんなことをぼんやりと考えている、
でも考えるまでもなく理解している。
歩く理由は怖いから、
止まらない理由も怖いから。
立ち止まって冷静になってしまった瞬間、
きっと僕は自分の犯した罪を再度認識してしまう。
それがたまらなく怖かった。
僕は仲間を見捨てた、
苦しみ呑みこまれていく彼らを助けようともせずに逃げ出し、
そしていまひとりぼっちで恐怖に犯されながらそれでも逃げ続けている。
許されるものではない、
許してもらえることでもない。
いや、
もう許してくれる人たちさえいないかもしれないのだ…。
知らず知らずのうちにまた目から涙が溢れてくる。
徐々に僕の足の動きが鈍くなり、
ついに僕は座り込んで泣きじゃくってしまう。
涙が止まらない、
懺悔の言葉も止まらない。
ただただ僕は許されざる罪を許してほしくて、
ひとりぼっちで泣いていた。
終わりが近づいてきているのに、
気が付いているのにもかかわらず…。
※
ルカリオは気力が抜けたように手をつく。
そんな彼の体を、
容赦なく残ったベトベターが包み込んでいく。
ルカ「う…うあ…。」
すでに彼の下半身のほとんどがベトベターの中に消え、
ひんやりとした敵の体の感触で、
足の指先が痺れるように感覚がなくなってきているのが分かる。
ずるるぅ……。
ふいにベトベターの手のような部分が彼に向けて伸ばされる、
そして彼の肩にかけていた探検バッグをそのヘドロの手で取り上げてしまう。
ルカ「…!」
返せ、
そう言葉で叫ぼうにも恐怖で彼の喉からは掠れた音しか出てこない。
ベトベターはまるで物珍しいものでも眺める様にバッグを見つめている。
がちゃぁ……ざらざら…ざらざら…がじゅがじゅがじゅ……!
しばらくいじっていたかと思うと、
なんと探検バッグの蓋を勝手に開き、
中身をまるで菓子袋の中身を空けるかのように、
ざらざらと口の中に流し込んでしまう。
ルカ「な…!?」
ルカリオが絶句している間も、
ベトベターは口いっぱいに入れた彼らの道具をひとしきり口の中で舐めまわすと…。
ぷっ…ぷっぷぷっ……!
といくつかの道具を吐き出し、
残りをゴクンっと飲み干してしまった・
ルカ「うぁ…あああ……。」
何が起こっているのか、
もうルカリオには冷静に考えている余裕などなかった。
ただ分かっていることは、
もう彼には反撃することも逃げることもできないということだけ…。
すでに彼の心は恐怖という酸に溶かされてしまっていた。
徐々に腰から肩へと包みこまれていき、
まるで床に押し付けられるように彼の体に強い圧力がかかっていく。
どろぉっとしたベトベターの感触が体中を這いまわり、
だんだん彼の意識も蝕まれるかのように薄れてくるのを感じる。
ルカ「や…やめ…。」
彼の顔が恐怖に歪み、
心が砕けそうになる。
いっそひと思いに飲み込んでくれと、
彼は知らず知らずに心の底で願っていた。
じゅるるぅ……。
まるでその願いに応えるかのように、
ベトベターの紫の口ががばぁっと彼に向けて開かれる。
むっとする臭気がルカリオの顔に吹きかかり、
涎のようにでろぉっとしたヘドロが彼の顔にぽたぽたと落ちてくる。
ルカ「ひぅっ…!」
滴り落ちるヘドロの感触が、
彼の恐怖心をさらに高ぶらせていく。
怖い、
なにも抵抗できず、
することさえ許されず。
ただただ恐怖のままに彼の体がこの生き物に呑みこまれ、
溶けてなくなろうとしている。
でも、
もしもこの口に呑みこまれてしまえば、
彼の感じる恐怖も無くなってしまうのだろうか。
ならばいっそのこと…。
ルカ「…。」
ルカリオはゆっくりと目をつむり諦めたように体の力を抜く、
そんな彼の体をベトベターは優しく舌を這わせ、
そして最後と言わんばかりに大きく口を開け、
彼の体を飲み込もうと覆いかぶさった…。
瞬間、
美味しそうに幸せな笑みを浮かべるベトベターの体が、
いきなり凄まじい衝撃に貫かれる。
…!?
ルカ「ぶはぁ…!」
ベトベターが衝撃によって吹き飛ばされ、
その体からこぼれ落ちる様にルカリオがはじき出され、
床にべしゃりと大量のヘドロとともに投げ出される。
ルカ「げっほ…えほえっほ…!」
「だいじょうぶ?」
ふいに、
彼の頭上から聞きなれない声が聞こえる。
ルカリオが顔を上げようとすると、
突然彼の体に冷たい水が浴びせかけられ、
体中についたヘドロが水と一緒に流れ落ちた。
ルカ「うわっぷ…!」
水がやみ、
彼はぷるぷると体を振って水滴を払うと、
ぼんやりする目で助けてくれた相手を見つめる。
そこにいたのは彼の体格よりも小柄で、
彼のことを見下ろすように見ていた。
それは『カメール』と呼ばれる水辺に棲むポケモンで、
彼のヘドロを洗い流したり、
ベトベターに攻撃をしたのは彼の放った【みずてっぽう】と呼ばれる技だった。
カメ「大丈夫かい、一応どこも怪我とかしてないみたいだけど…。」
ルカ「あ…、えっと大丈夫。助けてくれてありが…。」
ルカリオが礼を言いかけた所で、
カメールの手がそれを制止する。
見ると、
彼が吹っ飛ばしたベトベターは今の攻撃にもほとんどこたえず、
平気そうな顔をして再びこちらに詰め寄ってきていた。
ルカ「ひっ…。」
怯える様にルカリオは体がビクつく、
反撃した方がいいと頭で分かっていても、
敵の恐怖をじかに味わった体が彼が前に進むのをためらわせた。
そういっている間にも、
ベトベターはどんどんこちらに近づいてきている。
ルカ「に…逃げ…。」
カメ「ごめん、これ借りるよ…。」
逃げることを考えていたルカリオの前に進み出て、
カメールは彼をかばうように前に立つ。
そしてかれはすぅっと片腕を頭上に掲げると、
淡いブルーの光が辺り一面を照らし出した。
ルカ「あ…。」
カメールの手に握られていたのは、
透きとおった青色をしたふしぎだまだった。
ふしぎだまから放たれた光がベトベターを照らし出し、
敵はピタッとその動きを止める。
…?
ベトベターには何が起きたのか分からなかった、
ただ急に体中を変な光が照らしたかと思うと、
何か妙に体の中がざわざわするような感じで一杯になったのである。
…。
ベトベターは恐る恐る今しがた捕まえようとした獲物の方をちらりと見る。
そこにいたのはさっきと変わらない二匹の姿なのに、
なぜかそれがたまらなく恐ろしいもののようにベトベターには見えた。
カメ「さあ、どうした!」
カメールが強気に挑発しながらベトベターのもとに歩み寄る。
ちっぽけな姿のその生き物が、
まるで彼自身を滅ぼす存在のように見え、
ベトベターはブルブルと体が震えだす。
カメ「来ないなら…、こっちから行くぞ!!」
カメールの大きな声がベトベターを突き刺すと、
敵はまるでその姿に恐れをなしたかのように、
一目散に逃げ出した。
※
ルカリオはその光景を、
まるで信じられないものでも見るかのようにぽかんと見つめていた。
なぜあんなにも簡単にベトベターは逃げたのだろうか?
目の前にいるこのポケモンが何をしたのかさっぱり分からない。
カメ「…ふぅ、相手が逃げてくれて助かったよ…。」
そういう彼の手から、
コロンと使い終わったふしぎだまが転がり落ちた。
力を使ったことを証明するように、
青い色をしていた玉は今は鈍く黒ずんだような光をたたえている。
ルカ「な…何をしたの?」
カメ「ん、ああ『おびえだま』の力だよ。」
カメールは落としてしまったふしぎだまを拾い、
ルカリオに手渡す。
その顔は少し申し訳なさそうに笑っている。
カメ「ゴメン、これ君たちの依頼品だよね。勝手に使っちゃった。」
ルカ「…へ、ああ…!」
最初は何を言われているのか分からなかったが、
カメールの言葉を何度も頭の中で繰り返すと、
ルカリオは慌ててヨーギラスの落とした依頼品の袋を探す。
見るとすでにヨーギラスの姿はどこにもなく、
口の開いた袋から中身のふしぎだまがふたつほどころんと転がり出ていた。
ルカ「あ…、あいつもいなくなってる…。」
犯人に逃げられ、
依頼品のふしぎだまも(不可抗力とはいえ)使ってしまったのだ。
ようするに、
ルカリオ達の受けた仕事は失敗ということになる。
ルカ「はぁ……え、でも…。」
よく考えるとおかしい、
普通依頼品の道具は、
依頼を受けた者たちが勝手に使えないようになっているのだ。
それがどんな原理でなっているのかはよく分からないが、
なぜカメールはいとも簡単に使えたのだろうか。
それに聞きたいことはまだある…。
ルカ「なんであなたはこの依頼の道具を使えたの…?
それになんで僕達が依頼でここに来たって知ってるんですか…。」
ルカリオは堰を切ったようにカメールに話す。
それを聞くと彼は答えづらそうに頬をポリポリとかいていた。
カメ「え、いやその…。なんでだろうね…♪」
ルカ「ごまかさないでください!」
ルカリオはほとんど怒鳴るようにカメールに言葉をぶつける、
カメールはその様子を見ておもむろに口を開いた。
カメ「うーん、まあふしぎだまを使えたのは昔の仕事柄ちょっとね…。
でも君たちのことを知っていたのはちゃんと理由があるよ…。」
そういってカメールはごそごそと腰の辺りを探ると、
ルカリオに一枚の布きれを差し出す。
ルカ「え、これって…。」
カメ「君の仲間が落としていったものだよ、
奴らに襲われた時にね…。」
カメールの差し出したものは、
リザードがいつも首に巻いていたスカーフだった。
肌身離さず付けているこのスカーフが落ちていたということは…。
カメ「…ごめん、彼を助けるには距離が離れすぎていて…。」
その言葉を聞いてルカリオの目の前が真っ暗になる、
ライボルトだけじゃなく、
リザードまでもあの恐ろしいポケモン達に呑まれただなんて…。
ルカ「なんで…、どうして助けてくれなかったんですか!!」
知らず知らずにうちに彼はまるでカメールに全てをぶつけるかのように、
次々に言葉を浴びせかけてしまう。
カメールが悪くないことなんて分かってはいるはずなのに、
それでも彼は言葉を出さずにはいられなかった。
カメールはルカリオの言葉をただじっと黙って受け止めている、
だからこそルカリオは何度も何度も彼に言葉を投げかけてしまう。
いつしか彼の目からぽろぽろと涙があふれてきていた…。
誰が一番悪いかったかなんて本当は分かっている、
それは紛れもないルカリオ自身。
敵がどこにいるかも分からない場所で、
リザードをひとりきりで単独行動させてしまった罪。
おたずねものを捕まえた達成感に酔いしれ、
それゆえにライボルトを彼の身代りにしてしまった罪。
一度に二人の仲間を失った悲しみが、
深く強く彼の心を締め付けていた…。
だけど、
だからこそ彼にはまだやるべきことが残っているのである。
仲間を助ける、
他人の手や力ではなく、
自分自身の手で取り返さなくてはならない。
それが彼の犯した罪への贖罪であり、
一度は逃げ出そうとしてしまった自分への戒めだった。
ルカ「はぁ…はぁ…。」
カメ「もう、大丈夫…?」
ルカ「…はい、ごめんなさい。
あなたに文句なんか言える立場じゃないのに…。」
カメ「いいっていいって、そういうの言っとかないと辛い時ってあるし…♪」
ニャハハっと笑顔を浮かべて、
優しそうな表情でカメールはルカリオを見つめている。
その顔に幾分か恐怖も解きほぐされ、
ルカリオは涙を拭くとすくっと立ち上がる。
迷いや恐怖を吹っ切ったそんな表情だった。
カメ「仲間を助けに行くんだね。」
ルカ「うん、今から追いかければきっとまだ間に合うと思うから。」
やつらがどうやって獲物を食べるのかは分からないが、
あの【ようかいえき】で獲物を溶かすのならば、
完全に溶け切るまでには時間がかかるはずである。
それだけが今のルカリオに残された最後の希望だった。
ルカリオは地面に捨てられた探検バッグを拾う、
回復の道具も補助のふしぎだまもほとんどが無くなってしまい、
残った道具もベタベタになって使い物にはならなそうである。
カメ「オイラはついて行ってはあげられないけど…、
それでも行くの?」
ルカ「…うん、大切な仲間だもん…絶対に助けなきゃ!」
カメ「そっか…。」
ルカリオの決心を受け止めてくれたのか、
カメールはルカリオの持つ依頼品の袋を手に取ると、
中にある玉を何やらいじくって彼に返す。
カメ「せめてもの選別ってやつかな。」
そういうとカメールは二つの玉を指さしながら、
ルカリオの目を見つめて話す。
カメ「こっちの玉は君を助けてくれる玉、
もう一つの玉は君たち全員を助けてくれる玉だよ。」
ルカ「…。」
カメ「困ったことがあったら使うといいよ、
君でも使えるようにはしといたから。」
ニカッと人懐っこい笑顔を浮かべて、
カメールはルカリオに笑いかける。
それにつられてルカリオもにっと笑みを浮かべる、
彼を助けてくれた者へせめてものお礼のつもりだった。
カメ「あえて何の玉かは言わないよ?
全部オイラが助けたんじゃ意味がないみたいだし。」
ルカ「うん、自分の力でやらなくちゃ…だもんね。」
ルカリオはそういうと、
ぺこりとカメールに頭を下げて暗い水路をたどるように、
奥に向かって走り出した。
敵がどこにいるかは分からない、
でも水路の中に逃げた奴らを追うには、
水路を追いかけるしかないというのが彼の考えだった。
彼はひとりぼっちで暗い水路の奥へと駆けて行く、
しかしそれでも恐怖も恐れも感じてはいない。
ただひたすら仲間のもとへと走る戦士の姿がそこにあった…。
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