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気づいた時にはもう手遅れだった…。

うなだれ力の抜けていた僕の体に、
覆いかぶさるようにどろりと奴の液状の体が覆いかぶさってくる。
抵抗する間もなく僕の体は完全に呑みこまれ、
ぺっとりとした奇妙な感触が体中にまとわりついてくる。

もがいたところでこいつから逃れるすべはない、
むしろ僕にはもうもがく気力すら残ってはいなかったのかもしれない。

こいつの毒気にあてられたのだろうか、
だんだん息が苦しくなってきて、
それに胸も締め付けられるような気がして、
なんだか切ない気持になってくる。

しばらく揉み解されるようにこいつの体の中でぐにゃぐにゃと動かされ、
上も下も分からなくなり、
気分が悪くなる。

ふと、
僕の手に何かなにか柔らかいものが触れたような感触がした…。



にゅるにゅる……

どれくらいの距離を走ったのだろうか、
長く伸びている水路をたどり、
ずいぶんと下水道の奥まで走ってきたように思える。

ルカ「そろそろ一番奥まで来てもいいと思うんだけど…。」

疲れを見せながら、
ルカリオは一度呼吸を整えるためにゆっくりと走るペースを落としていく。
体力には少しは自信があったものの、
ずいぶんと長い距離を走ったためか膝がじんじんと熱を持っている。

ルカ「はは…、意外と体力が無いもんなんだなぁ…。」

足を止めないようゆっくりと歩きながら、
ルカリオは自嘲気味に呟いた。

ルカ「バトル続きの依頼とかもあったのに、
   こんな疲れたことなんてずいぶん久しぶりな気がするな…。」

彼はそう言うと探検バッグについた探検バッジをちらりと見る。

銀色に鈍く輝くシルバーのバッジは、
彼と彼の仲間達が積み上げてきた思い出がたくさん詰まっているような気がし、
彼ら三匹にとっての一番の宝物であり、
大事にしてきたバッジである。

ただその仲間達を失った今、
いつもならキラキラと輝くいて見えるそのバッジも、
なんだか濁んだ輝きに見えてしまった。

ルカ「そっか、今までこんな風に長く別れることなんてあんま無かったからな…。」


仲間とはぐれて一人になった今、
彼は自分の力量のなさを再確認していた。

今まではチームのリーダーとして、
仲間達と依頼の遂行や探検隊としての仕事などで忙しく立ち回り、
あまりじっくりと自分の役回りを考えたことなどなかった。

だがよくよく考えてみると、
彼にはリザードやライボルトのような特筆した能力というのが、
いま一つ思いつかない。
確かにそこそこの攻撃や守りは出来るのだが、
ライボルトのような素早い先制攻撃も、
リザードのような守りから攻めに転じるようなうまい戦い方もしたことがない。

そういったものを仲間たちに任せ、
せいぜい彼がしていたことといえば仲間たちの後ろにまわって、
ちまちまと作戦や攻撃方向を指示していたぐらいである。


ルカ「…我ながら情けないな。」

考えれば考えるほど、
彼一人では何もできない気がしてくる。
カメールに大見得を切ったものの、
実際なにも作戦などは考えてもいないのである。

ルカ「だけど…。」

彼はバッグの中からみっつのふしぎだまを取り出す。
ひとつは使われくすんだ色をしていたが、
後のふたつはキラキラと暗い水道内でも淡く光っていた。

カメールが託してくれた最後の希望、
それにきっと仲間達も彼が助けに来るのを待っているはずである。
泣き言を言っている暇なんて無かった。

ルカ「急がないとね…!」

そう言って彼は再び水路をたどって走って行った。



しばらくして…

ルカ「…見つけた。」

ルカリオはゆっくりと立ち止まり、
道の奥を見つめる。

水路の終わり、
壁の奥からゴウゴウと水が流れ出し、
彼のたどってきた水路に水が溢れんばかりに流れ出ている。
おそらくどこかの川から入ってきた水が、
この下水道へと流れ込んでいるのだろう。


水が流れ出す大きな暗いトンネルの横に、
これまたひときわ大きく作られたパイプが壁を貫通するようにくくりつけられている。
そしてそのパイプの床には、
あのベトベター達の這ったような跡や、
大量の水たまりがパイプの中へと続いている…。

ルカ「…。」

ルカリオは静かにパイプに近づき調べてみる。

彼の背丈でも這って進めば何とか進めそううな大きさだが、
どうしてもお腹や足がびちゃびちゃに汚れてしまうだろう。
それにもしもこのパイプの中であいつらと鉢合わせをしようものなら、
反撃する間もなく彼も奴らに取り込まれてしまうことになる…。

ルカ「…ふぅ、イチかバチかってやつかな。」

ルカリオはにっと軽く笑みを浮かべると、
意を決してパイプの中に潜り込んだ。
下水道よりも臭いがこもるせいかむっと息苦しく、
悪臭と呼ぶにふさわしい臭いが刺すように鼻をついた。

顔を歪めながらも臭いに耐え、
ルカリオはずるずると這いながら足を進めていく。
すると、
それほど進まないうちにパイプの奥から何か蠢くような音が聞こえてくる。

ずる……ずる……ぴちゃ…ずるるっ……

聞き覚えのある音にルカリオの体がぎしっと強張る、
まぎれもないベトベター達の蠢く音だった。

パイプの中で聞くせいか敵の動く音が重なり合い、
正確な数は分からないが、
それでも一匹二匹で動くような音出ないことは分かった。

ルカ「一体、何匹いるんだ…。」

ルカリオはさっきよりも慎重にパイプを進み、
絶対に音をたてないように気をつけながら先を目指す。
やがてパイプの奥から、
ぼんやりと光る出口のようなものが見えてきた。

ルカ「…。」

彼はそろりそろりと光に近づき、
パイプの出口からそっと外の様子を覗き見る。

そこは地下にできた四角形の小さな小部屋のようで、
どうやらベトベター達の住処らしく、
何匹ものベトベターがひしめき合うように部屋の中に押し込まれていた。

ルカ「うわぁ~…。」

予想はしていたものの、
やはりかなりの数の敵がいるようである。
さすがにこの数では、
たとえふしぎだまの力があったとしても、
彼一匹ではどうすることもできない。

いやむしろ、
ただの依頼品だったこのふしぎだまが果たして攻撃用なのか、
それとも補助のような力を持ったものなのかも分からないのである。

ルカ「でもあの人はかならず役に立つって言っていたし、
   信じる価値はあるよね…!」

ルカリオは探検バッグのなかのふしぎだまをそっととりだす、
使いどころが分からないものの、
いざという時のために手で持っていたほうがいいと思ったのである。

ルカ「とにかく何とか隙を見て………!」

部屋の中をうかがっていたルカリオは思わず目を見開く、


部屋の奥、
ベトベター達が取り囲むようにしてできた一部の空いた空間、
そこにリザードとライボルトがぐったりした様子で倒れているのである。

ルカ「…。」

仲間の無事な姿を見て、
ひとまずルカリオはほっとあいたように胸をなでおろす。
二匹ともまだ完全に助け出したわけではなかったが、
それでも無事な姿を確認できたのである。

ずるぅ…ずるる……ずるずる………

ふいに部屋の奥から何か巨大な物体が這いずり出るように出てきた。

ルカリオが様子を見ていると、
他のベトベター達よりもひときわおおきなポケモン、
『ベトベトン』が倒れる二匹を見下ろすように出てきたのである。

ベトベトンはベトベター達に力を誇示するかのように腕を高くあげ、
ベトベター達も唸るような鳴き声でベトベトンに応える。

どうやらあのベトべトンがあの群れのボスであるようだった。

ルカ「く…、この数に加えて進化系までいるのか…。」

先ほどの安堵感が、
ベトベトンの出現によっていっぺんに吹っ飛んだ。
見た目こそそこまで変わらないとはいえ、
進化前のベトベターと進化後のベトベトンではその能力は雲泥の差がある。

ましてや大量のベトベターだけでも厄介なのに、
ベトベトンまで現れてしまってはやはり正面からバトルを挑むのは、
どう考えても無謀であった…。

ベトベトンが紫色の大きな舌べろで舌なめずりをすると、
他のベトベター達もまるでベトベトンを崇拝するかのように、
伸びたり縮んだりを繰りかえし、
二匹をずりずりと親分の前に差し出そうと押していく。

ルカ「く、まずい…!」

ルカリオの中に葛藤が生まれる。

今ここで助けに飛び出さなくては、
まちがいなく仲間達はあのベトベトンに呑まれてしまうだろう。
しかし、
あれだけの大群衆がいる中に飛び込めば、
二匹を助け出す前に彼もあいつのお腹に収まることになってしまう…。

ルカ「うぅ…、一体どうすれば…。」

彼は歯を食いしばりながら迷う。

そうこう言っているうちに、
ベトベトンがライボルトとリザードの上にゆっくりとのしかかり、
二人を徐々に体内に取り込んでいく。

にゅる…にゅるにゅる……ぐにゅぐにゅ……

ライボルトの鮮やかな黄色い体が、
ぐにゃぐにゃと蠢くベトベトンの肉体に飲み込まれるように消えていき、
無防備に引きずり込まれる彼の体がピクピクと動く。

そしてリザードの体もにゅるにゅるベトベトンにと包み込まれ、
まるで敵と同化するかのようにその境目が不明瞭なものになっていく。
気絶しながらもその顔は苦しそうに歪んでいた。

ベトベトンの体からもあのしゅうしゅうという溶かされる時の音が聞こえてくる、
二匹を体内に取り込みドロドロに溶かして養分にする気のようであった。

ルカ「う…うう…!」

悲痛に響く消化の音に、
ルカリオの理性は限界まで達していた。

ルカ「やってやる、これ以上我慢できるかぁ!!」

彼はそう叫ぶとパイプの中から飛び出した、
正直作戦も勝機もない戦いである。
それでも仲間を救うためにも、
もう迷ってなどいられなかった。

彼の瞳は、
覚悟の決まった戦士の目をしていたのだった…。
 


その7です、
ようやくじっくりと捕食絵がかけて満足です。
難しいけど取り込み捕食も描くのが楽しいなぁ。
かなりドロドロにしてやったんだぜ。

おかげさまで一晩寝たら一気に元気になりました、
単純な体でよかったです。
お気づかいいただいた皆さんありがとうございました。

でも試験期間入っちゃったらかなりスローペースになることが予測されるので、
今のうちにザカザカ書いときたいなぁっとも思ったり。
たぶん7月から8月の前半はかなり更新がまったりになります、
試験もあるし帰省もあるし。

学生やるのもなかなか大変です…。
(・ω・)
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お返事です
>>voreさん

いえいえこちらこそです、
あまりお気になさらないでくださいな。

コメントとか頂けるだけでも、
ものすごくありがたいことですので、
いつもしていただき本当にありがとうございます♪
森クマ(管理人) 2009/07/01(Wed)00:12:20 編集
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