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どこか遠くから水滴の落ちる音が空気を伝って響いてきている。
その薄暗い道を先ほどのヘルガーとバンギラスは歩いていた。
鬱陶しそうに呟く。
ほのおタイプである彼にとって、
周囲が水に囲まれたこの場所は正直苦手な場所のひとつである。
「たしかいわタイプも水がにがて…。」
ヘル「………いや、なんでもない…。」
気持ち良さそうに大きくゲップをしているバンギラスの姿が映る。
丸々と膨れた大きなお腹をポンポンと叩いたり、
幸せそうに腹を撫でたりしながらのしのしと彼の後をついて歩いてきていた。
この腹の中に『二匹』の別のポケモンが飲み込まれているということを…。
「あの小娘を逃がすなんてどういうつもりなんだ…。」
バンギラスの方に話しかけた。
三匹来たうちの二匹はこいつの『食事』になってもらったが、
一匹リーダー格のポケモンをこいつは逃がしてしまったのである。
逃げたというより逃がしたという方が正しいのだから…。
「お前ならさっさと食うことぐらいできたんじゃないのか。」
バン「ん…、まあいいだろ…♪」
ヘル「よくないから言っているんだ…。」
見ると少し進んだ地下水道の壁の所に、
まるで店の裏口のような扉がこじんまりと取り付けられていた。
先ほどの出来事を頭の中で整理していた…。
先ほどの探険隊の三匹との戦い、
ヘルガーは少し離れた位置から様子をうかがっていた。
あっという間に一匹、また一匹と、
ポケモン達が彼の喉をずるりと音を立てて飲み込まれていった。
彼はすぐに終わる勝負だと特に身構えもせず静かに眺める。
そいつは脱兎のごとくその場から逃げ出してしまったのである。
走りだす彼をバンギラスがやんわりと止めたのであった。
バン「別にその必要はねえよ。」
ヘル「な、だからって。」
バン「いいからいいから、」
「それよりさっさと帰ろうぜ…♪」
さっさとマンホールを降りて行ってしまったのである…。
彼はただ呆然と立ち尽くすだけであった…。
ヘルガーは先ほどから不機嫌そうにバンギラスと歩いていたのだが、
アジトの扉の前で立ち止まり彼の方に向き直る。
「どうしてあそこであいつを逃がしたんだ。」
見る者によっては冷や汗すら凍りそうな冷たい眼差しを浮かべているが、
そんな彼の様子を見てもバンギラスはめんどくさそうにぽりぽりと頭をかく。
「アジトの入口見られたとかじゃねえんだし。」
ヘル「あたりまえだ…、」
「それだったら逃がしているわけ無いだろう…。」
もしもアジトの入口を見られていたとのだったら、
たとえこいつが止めようと、
彼はあのポケモンを決して逃がしはしなかっただろう。
「なぜわざわざ倒せる相手を逃がしたのかってことだ…!」
逃がした敵によるの復讐であった。
復讐に燃える相手がどれほど手強く、
そしてどれほど戦いづらいか彼は身にしみて理解していた…。
そこには空しさしか残らない…。
彼は痛いほどそんな場面に巡り合ってきている…。
「後で闇討ちされても知らんぞ。」
バン「あいつらがきてることに気がつかなかったお前に言えたことかよ…?」
ヘル「むぐっ…!」
バンギラスのしれっとした一言に思わず口をつぐむ。
悔しいが接近に気が付けなかったのは彼の失態である…。
バン「へっ、まあいいじゃん。」
「あいつを逃がしたのは、その方がおもしろそうだったからだよ。」
ヘル「……おもしろそう?」
バン「おう、おもしろそう♪」
だが目の前にいる緑色のポケモンは、
ただニヤニヤと悪だくみをするような笑顔を浮かべているだけであった…。
「もしまた来たら、その時は頭からぺろりと食ってやるからよ♪」
ヘル「どこから来るんだその妙な自信は……。」
ヘルガーも少し呆れたように笑みを見せた。
こいつがやられるところが想像できないし、
彼のように思い悩む様な性格のやつでも無いだろう……。
二匹の体がぴくっと反応する。
だが聞き覚えのあるその声に、
バンギラスははぁっとため息に似た息を吐いた…。
「趣味悪りぃなぁお前…。」
「話の内容まではきいてないからよ。」
ヘル「まあいいだろう、」
「ゲンガー、……今戻った。」
そこからぬぅっと紫色の影のようなものがニタニタと笑いながら出てくる。
丸呑み団の門番であるゲンガーというポケモンだった。
たまに逃げ込んだ盗賊なんかがアジトに近づいてくることがある。
そんなやつらを捕え『食料』としてアジトに運ぶのが、
門番であるゲンガーの役目だった。
かなりの数の団員たちに嫌われているのだが…。
ゲン「ああいいぜ…、」
「だがバンギラスの旦那はちょっと待ってもらおうか。」
バン「…ん?」
ゲンガーは腕で遮って止める。
そして彼はちょいちょいとバンギラスの持っている布袋を指さした。
「その大事そうに背負ってる荷物はなんだよ…?」
バン「………。」
ゲン「もしもそいつが仕事ついでに獲ってきた『食料』だったら、」
「ここで俺様に預けてもらないと…。」
「これも規則なんでなぁ…ケケケッ♪」
バンギラスの表情がみるみる不機嫌そうになっていく。
まあ彼はあの布袋の中身を知っているため、
こうなることくらいはある程度予想はしていた。
「預けるならさっさとしな♪」
舌なめずりをしながら手を出して荷物を要求している。
食料庫に放り込む前に味見でもする気なのだろうか…。
自分の手の甲をしっしと振っている。
「お前に預ける気はねえよ。」
ゲン「ほぉ…、なら中身を一度見せてくれよ。」
「荷物チェックの規則もしってるだろ……?」
その様子にヘルガーはほぉっと目を細めた。
荷物チェックという規則がある以上渡すしかないだろう…。
(こいつには悪いが袋の中のアレはあきらめた方が…。)
目の前にいるのがどういう性格の奴なのかを…。
ゲン「…ケッ?」
二匹は何気なくバンギラスの方を見る…。
その瞬間、
二匹の背筋にぞぞぞっと気味の悪い感触が走った。
「てめえに見せる気も渡す気もねえよ…。」
声にこもる気迫は普段の彼のものとは比較にならない。
「いいぜやってみろよ…!」
ヘル(こいつ…本気か…!)
それを見た二匹はヤバイと本能で感じ取っていた。
このバンギラスがその笑顔を浮かべるときは、
大抵戦いに飢えているときなのである……。
あまりに危険すぎる状態だった。
「ゴーストタイプってどんな味がするんだ…。」
バンギラスが今にも飛びかからんばかりにゲンガーを壁に追い詰めていく。
決して正面から見たくは無い光景である…。
「いい…行っていいから!!!」
さすがにゲンガーの方が折れた。
今まで張り詰めていた殺気が嘘のように霧散し、
にやっとバンギラスが笑みを見せる。
「そうやって素直に通せばいいんだよ♪」
扉の取っ手に手をかける。
そしてくいっと首だけをヘルガーの方に向けて口を開いた。
「報告とか後よろしく♪」
ヘル「………はっ?」
「お、おい!?」
バン「んじゃな~♪」
ヘルガーはしてやられたというように額に前足をあてる…。
全て彼一匹に押し付けられてしまったようだった…。
だがどこまでも普段通りのバンギラスの様子に、
どこか安心した表情を微かに見せていたことにここにいるだれも気がつかなかった…。
普段がああいった性格だったから見逃されているのだ…、
心を消された『捕食兵器』など少ないほうがいいのだから……。
隣にいたポチエナは完全に戦意を折られたらしく、
腰を地面につけガタガタと震えている。
エナ「だ…だってあいつ……!」
「仲間を…た……食べ……。」
バンギラスの腹の膨らみを見て覚悟を決めたように相手を睨む。
意気を込めてニューラはバンギラスに飛びかかった。
彼女の爪が紫色の鋭い光に包まれる、
【シャドークロー】と呼ばれる技が彼女の爪を包み強化したのである。
もともとのタイプこそニューラのあくタイプとは違ったが、
技の発動や使いやすさから彼女はこの技を好んで使っていた。
だがせめて腹に力強い一撃だけでも叩き込めれば、
倒すのは無理でも吐き出させることぐらいならば…と考えたのである。
相手の巨体から考えても、
素早い一撃を与えるだけなら彼女の方に分があるはずだった。
たんったんっと飛ぶように軽く地面を蹴り、
彼女の体が弾丸のように早さでバンギラスに近づく。
彼女の渾身の攻撃が青色の腹に見事に命中する。
一瞬爪の切っ先に手応えのようなものを感じた……が。
ニュ「…えっ?」
まるで鋼鉄にでも突き刺したかのように腹に刺した瞬間に鈍い音を立て、
【シャドークロー】のオーラが簡単にへし折られて砕け散った…。
信じられないといった様子でニューラの目が丸くなる。
いくらバンギラスという種族が防御力の高い種族とはいえ、
こんな異質な硬度を持っているはずがない…。
じゃあこれは…?
ニュ「ひ……ギャゥッ…!?」
彼女の体は太い腕に殴りつけられその勢いのまま壁に激突する。
躊躇ないその一撃に壁に方が衝突の勢いのままいびつにへこみ、
みしっと体中が嫌な音を立て、ずるずると彼女は地面に倒れ込んだ。
線の細い彼女にとって今の力任せの一撃は致命傷に近かった…。
まったくもって手も足も出ない…。
直に攻撃を受けたからこそわかる、
バンギラスと自分達とのレベルの差…。
圧倒的なまでの力の差だった…。
バンギラスがゆっくりとした足取りで近づいていく。
ニューラはぎゅっと目をつむった…。
「姉御から離れろぉ!!」
やけくそのような声を上げ、
残っていたポチエナがバンギラスの後ろから飛びかかる。
ほぼ全力で向かった前の二匹よりも力を出せるわけがなかった…。
バン「なんだそっちから来たのかよ、」
「わざわざ採りに行く手間が省けて助かったぜ…♪」
バンギラスは片手で受け止めてしまう。
必死にポチエナは体をよじるが、
彼の小さな体はバンギラスの大きな手にがっしりと掴まれて離れない。
バン「そう怯えんなよ、」
「痛みのねえように食ってやるからよ♪」
そんなことに哀れみを持った様子は微塵もない。
バンギラスの目は完全に獲物を捕えた捕食者の目だった。
そのまま彼の足に喰らいつく。
ぬちゃあっとした唾液にまみれた舌が彼の足に絡みつき、
にゅるにゅるとした口の中に徐々に沈められていった。
ぬるぬるとした唾液が彼の体毛を徐々に湿らせる。
舌が足からお腹へと上って行くたびに彼の体が喉の奥に引き込まれ、
爪先がまるで宙ぶらりんになったかのようにぷらぷらと喉の奥で揺れている。
ニュ「や……やめ…ろ…。」
全身に激痛が走り目の前がチカチカと明滅した。
一撃とはいえかなりのダメージを負ったのだ、
彼女にはもう戦える力はほとんど残っていなかった…。
そうしている間にも仲間の姿がゆっくりと口内に呑まれていく…。
エナ「あ…姉御……た…たすけっ……!」
ぼろぼろと涙をこぼしながら助けを求めるように彼女に伸ばしていたその手が、
バグンッという音とともに緑の口に遮断され見えなくなる。
そして……。
さっきと同じ光景が今度はニューラの目の前で起きた。
僅かな間だけ膨れあがった喉が彼女の鼻先をこすり、
腹のふくらみと同化し見えなくなっていく。
彼女も知らないうちにぽろぽろと涙をこぼしていた。
それが恐怖によるものか、
それとも悲しみによるものなのかは彼女にさえ分からなかった…。
「ん~、やっぱ味はさっきのやつとあんまし変わんねえか。」
バンギラスは退屈そうに味の感想を呟いている。
最初からたいして期待はしていなかったのか、
まるでいたから食ってやったとでも言わんばかりの言い草だった。
戦意を砕かれ恐怖に染まり切った彼女の姿は、
最初の挑発していた勝気そうな姿がまったく感じられないほど弱り切り、
まるで魂の抜けた人形のように虚ろな目をして座り込んでいた。
彼女の顎を軽くつまみくいっと持ち上げる。
「最後くらい選ばしてやるよ…。」
ニュ「………。」
脅す口調でもなければ諭すような口調でもない、
ただただ静かな口調で語りかけていた。
どこか楽しんでいるようにさえ見えた…。
※
彼らから離れたところでヘルガーがごくりと唾を飲み込んでいた。
だがその横顔が浮かべた邪悪な笑顔は、
見るものを戦慄させるのに十分な威力を秘めていた…。
それほど彼にとってその光景は見慣れたものであったのだった…。
しばらくしてニューラの虚ろな瞳がゆっくりと持ち上がりバンギラスを見つめる。
そして彼にしか聞こえないほどの掠れた声で、静かに彼女の答えが囁かれた…。
通行人もおらずひっそりと静まり返った裏通りは、
まるでここだけ町から切り離された別の空間のようだった。
やがてどこかの建物の隙間にあるような路地までやってきた。
特に隠れ家的な店があるわけでもなく、
道の隅にはガラクタが積まれており、
見ただけで滅多に人の手が入らないことが分かるような場所だった。
疲れた様に軽く伸びをすると路地の奥へと歩いていく。
しかもわざわざ取っ手の付いたその蓋が設置されていた。
大きさもよく町中で見る様な物よりもひとまわりサイズが大きく、
巨体のバンギラスでも無理すれば入っていけそうな大きさだった。
このマンホールこそが彼らの目的地なのである。
具体的には暴れまわる野生ポケモンや盗賊・おたずねものなんかを無償で討伐し、
その代わりに倒した相手をアジトへと持ち帰り、
そのまま肉食ポケモン達の『食料』となってもらう…。
いわば捕食者集団のあつまりのような組織である。
組織の団員という形で受け入れることで彼らに居場所を与えているため、
一概には悪の組織とはいい難い集団ではある。
旅人達はもちろん町の住民達だってそんな組織があるなんてそうそう知らないだろうし、
まして自分達の住む町の地下にそんなやつらのアジトがあるなんて夢にも思っていないだろう。
現に今回のヘルガーの任務はその組織から脱走したあるポケモンの捕獲であった。
おまけに捕獲とはいわれているが彼に仕事が回ってくる時点でほぼ生け捕りではない…。
彼への捕獲任務の場合、
それは対象を『餌』にするか『食料』として持ち帰るかのどちらかなのだから…。
身勝手な理由もしくは組織の負になるものが脱走した場合捕えるのが彼の主な仕事だが、
当然「戻れ」といって素直に戻るものはほとんどいなく、大抵は『餌』か他団員の『食料』として消えてもらう…。
非情なようだが仕方ないと彼も割り切ってはいた。
今回の相手は彼にしては珍しく採り逃し、
おまけにその逃亡の痕跡まで見事に消されてしまい追跡できなくなってしまったのだ…。
すばしっこさでは彼よりも上のようだった。
直接の戦闘なら彼の方に分があると読んでいたのだが、
完全に逃げに徹されついにはその逃亡を許してしまったのである…。
「バトルは苦手だとか前に言ってたが…どこがだ…。」
彼の他にも数名の団員に手伝わせ総出で脱走者を捕えに行ったのに、
結果は惨敗である…。
さすがは上位になれるだけの実力は持っていたというところだろうか…。
ヘル「…まあいい、とりあえず一度戻って報告を……ん?」
ふともう一人の団員が珍しく静かなことに気がついた。
くるっと後ろを向くとバンギラスがマンホールとは逆の方向を向いて立っており、
彼らのあるいてきた道の方向をじっと見つめている…。
バン「ああ、ちょっとな…♪」
心なしかその声は少し楽しそうに聞こえた。
その様子に眉をひそめるヘルガーだったがバンギラスは彼にかまわず同じ方向を睨んでいる…。
一匹のニューラが路地の角から姿を現した。
しかもその後ろからバッと二匹のポチエナも飛び出してきて、
まるで彼女を守る忠臣のように左右に構える。
どうみても通りすがりなどという気配ではない…、
恐らくおたずねもの目当ての探険隊か旅人だろう。
いくら考え事をしていたとはいえこれだけ接近されるまで気が付けなかったとは…、
自分のその失態に思わず舌打ちをした。
反対の手に持っていた手配書を広げこちらに見せてくる。
その手配書には明らかに隣にいるバンギラスの顔がでかでかと描かれていた。
「念のため追けてみた買いがあったよ。」
ポチ「おぅおぅっ!」
「痛い目見たくなかったらおとなしく俺たちにつかまりな!」
どうやら話の流れから見てもこのバンギラスだけが狙いのようだが…。
いかんせん正面が三匹でふさがれている以上逃げ場は後ろのマンホールしかない。
アジトへ繋がる入口のことを外部に漏らすのはどう考えても得策ではない…。
二匹でこいつらを片付けたほうが明らかに面倒が少ないだろう。
幸いここは人通りの少ない裏路地である、
ちょっとやそっとの騒ぎでは気付かれないだろうし、
『狩る』のにも適している場所である…。
ヘルガーは攻撃態勢を取ろうとぐっと前足に力を込める。
…が。
力を込めていたヘルガーの目の前に見慣れた布袋が無造作に落とされる。
先ほどまでバンギラスが背負っていた荷物だった。
バン「ここはオレに任せておきなって…♪」
とても楽しそうにしているバンギラスの声が響いてくる。
チラッと目線だけあげて彼の顔を見ると、
ぺろっと口元を舐め端からすくいきれなかった唾液が口元を伝って垂れている…。
どうやら任せても大丈夫の様である。
「さっさとアジトに戻って休みたいんだからな…。」
バン「あいよっ!」
彼は三匹に囲まれる形で立つと軽く手首をぽきぽきと揉みほぐし、
そしてちょいちょいと挑発するように手首をくいくいっと曲げる。
「かかってくるなら早くしろよな!」
ニュ「……っ?」
今まで彼女が感じたことの無い、
寒気に似た不気味さをこのポケモンから感じたのである…。
バン「おらおら、どうしたよ?」
「オレを捕まえるんじゃなかったのかい。お譲ちゃん!」
ポチ「な…なんだと!」
先ほどのポチエナが声を荒げている。
どうやら血が上りやすい性格らしくふーっと牙をむいて威嚇をしていた。
バン「姉御ねぇ…、」
「とりあえずチビには用ねぇからお前は帰ってもいいんだぜ。」
ポチ「なっ…チビって…!」
まるで追い払わんばかりにしっしと手を振っている。
どう見ても挑発しているのだが、
ポチエナの方は顔を真っ赤にして怒り今にも飛びかかりそうだった。
「家来ごっこでもなんでもお家で勝手にやっててくれよ、おチビちゃん♪」
ポチ「ぐぅっ、舐めるなぁぁぁ!!」
ニュ「やめな、ポチエナ!!」
ニューラの静止の声を振り切りバンギラスに飛びかかる。
彼はぐわっと大きく口を開けると、
勢いそのままにバンギラスの尻尾に喰らいついた!
ぎりりっと力を込めて尻尾を噛みしめる。
だが…。
ポチ「…ふぐっ!?」
見ると彼の攻撃がまるで効いているそぶりが見えず、
飽きた玩具でも見つめるかのような冷めた目つきで彼を見ている。
その目を見るとポチエナの背中にぞくっと戦慄が走った…。
バン「いいか、【かみつく】ってのはなぁっ!!」
あまりの遠心力にポチエナの牙が尻尾から外れ、
彼の体は中に投げ出されてしまった。
当然飛行タイプではない彼は宙に投げ出されたらそのまま落ちてくることになる。
受け身も満足にとれぬまま、
ひゅーんっと加速の勢いをつけてポチエナの体が地面めがけて落ちてくる。
ポチエナにかぶりついたまま彼は不敵な声でぽつりと呟いた。
緑の口からはみ出した足と尻尾がたらんと下がっている。
何が起こったのか理解すると悲痛な叫び声をあげてバタバタと暴れる。
蠢くたびに軟らかい舌べろやたまった唾液がぐちゅぐちゅぴちゃぴちゃと音を立て、
彼のふさふさした毛並みをべっとりと汚していくのだが、
それにも構わず彼は暴れ続ける。
バンギラスの固く閉ざされた顎はびくともしていない…。
何とか口の中から這い出ようと踏ん張るポチエナだったが、
その努力も空しく徐々に彼の体が喉の奥へと引きずり込まれていく。
口の中で彼が動くたびに、
頬がぐにぐにと内側から押され不気味に蠢くが、
バンギラスは構わずにくちゃくちゃと彼の体を咀嚼し続けている。
ニューラともう一匹のポチエナは驚愕と恐怖の混じったような表情を浮かべていた。
目の前で仲間の体がちゅるちゅるとバンギラスの口の中にすすられていき、
足首の近くまで飲み込まれ鮮明に聞こえていた悲鳴もだんだんくぐもったただの音へと変わっていく。
二匹とも急いでポチエナを助けなくてはと頭では分かっているのだが、
両者ともその光景に足がマヒしたかのように動けない…。
エナ「ひ…ひぃっ……!」
それと同時に……。
バンギラスがポチエナの体を容赦なく嚥下した。
彼の喉が一瞬突き出すようにもこっと膨れ上がったかと思うと、
あっという間に静かに引っ込みその塊が腹の方へと移動し見えなくなった。
「まずくはねえんだがやっぱ小さすぎるから腹にたまんねえや。」
腕でごしごしと拭きながらバンギラスはじろりと残りの二匹を見る。
怯えた表情の二匹を見ながら、
バンギラスはにぃぃっと笑みを浮かべた。
がやがやと騒がしい喧騒の響き渡る町の大通り。
一人でぶらぶらと歩いている者、
友人と仲良く露店を除いている者、
購入したものを嬉しそうに眺めている者。
様々なポケモン達がこの通りを行き交っていた。
この辺りの土地では数少ない大きな町であるここは、
街道の整備も整っているためか、
毎日多くの旅人や商人が出入りし、
朝早くから夜遅くまでとても活気づいている町だった。
そんな賑やかな大通りを、
人ごみに紛れながら二匹のポケモン達が歩いていた。
片方は濃い緑色をした鎧のような体つきでのしのしと地面を踏みしめるように歩き、
もう一人は黒い中型犬ぐらいの大きさですたすたと道を歩いていた。
二匹はそれぞれ『バンギラス』『ヘルガー』と呼ばれるポケモンであり、
どちらもきゃいきゃいと楽しそうに騒いでいるポケモン達の中ではひどく浮いているように見えた。
バン「……ち、邪魔だなぁ。」
ヘル「……まぁ、確かにな…。」
ひょいひょいとヘルガーの方が人ごみの間をうまくすり抜けて進んでいく中、
バンギラスの方は窮屈そうにしながら歩いている。
よく見るとバンギラスは片手に太い木の棒を担ぐように持っており、
その先端には何かが入ったように膨らんだ布袋が静かにゆらゆらと揺れていた。
バン「あ~、」
「いつもながらこの時間のこの通りはうぜえくらい混みやがるなぁ…!」
ヘル「文句を言わずにきりきり歩け、」
「じゃないとアジトに帰る前に日が暮れるぞ。」
ヘルガーがちらりと後ろを振り向くと、
バンギラスの方は忌々しそうに人ごみを睨みつけながら、
大きな体で押しのけるように進んできていた。
この町の生活の拠点である居住区とは違い、
旅人や商人達が最も集まるここ商店区は店や露店があちこちに建ち並び、
街の住人達から立ち寄った旅の者達までありとあらゆる人々が訪れる区域である。
その為、日中の真昼間…。
つまりは今彼らがここにいる時間帯はもっともこの区域が賑やかになる時間帯であり、
バンギラスのような大きな図体のポケモンはこうして歩くことさえ困難を極めるのだった…。
ヘル「だいたいだな、」
「お前が町に入る直前に木の実を採りに森なんかに入るからこんな時間になったんだろうが…。」
バン「しゃあねえだろ、」
「色々やることがあったんだからよ!」
ヘル「やることって…おっと、失礼!」
バンギラスの言葉に返そうと思ったとたん、
前を歩いてくる巨体のポケモンにぶつかりそうになりとっさにヘルガーは相手をかわす。
彼だってバンギラスほどではないが混み合っていれば当然動きにくいし、
今みたいに自分よりも大きなあいてに踏みつぶされようものなら最悪致命傷になりかねない。
だからこそ早めに町に入りたかったのだが…。
ヘル「…まぁ、今更嘆いても仕方ないか。」
「しかし今日はいつも以上に混んでいるな…。」
ふぅっと小さく息を吐き、ヘルガーはぐるっと人ごみを見渡してみる。
道行く道に並ぶ建物から見える店には、
綺麗な小物や美味そうなパンや果物が所狭しと並べられており、
旅人のような格好をした者たちが珍しそうに商品を眺めているのが見える。
町よりも村や集落といった細々としたものが多いこの地方では、
この町のような大きな都市はほとんどない。
まぁ俗に言う田舎から出てきた旅人たちにとって、
ここは珍しいものの宝庫のような場所なのである。
ヘル(…普段なら適当に二・三匹見つくろって『狩る』んだが…。)
ヘルガーは通り過ぎる商店をちらりと横目でのぞき見る。
中では赤と白の毛並みをしたポケモンが、
知り合いらしきポケモンと店の物を眺めて楽しそうに談笑しているのが見える。
彼が手際よくやれれば5分とかからずに二匹を捕えることができるだろう。
だが…。
ヘル(まぁ、今日はこいつもいるし…。)
(誰にもバレずにというのは難しいか……。)
と考えながら彼はバンギラスを見上げる。
不機嫌そうに人ごみを眺めているバンギラスだったが、
不意に視線を外さないままその口が開く。
バン「…なぁ、いっそここで暴れちまうのはどうだ?」
げんなりとしたような声で呟いているバンギラスだが、
視線だけは人ごみに固定したまま離れていない…。
バン「ちぃっと暴れればすぐにこいつら散ってくだろうし、」
「うまくいけば『食料』も取れるかもしれないぜ……なぁどう思う?」
ヘル「自分から大騒ぎを起こす犯罪者がどこにいるんだ…、」
「おとなしく歩け馬鹿。」
バン「ちぇっ…!」
ヘルガーは軽く頭痛を覚える額を押さえながら、
それでも呻くようにバンギラスの提案を一蹴した。
まあ彼が今日他のポケモン達を襲わないだいたいの理由がこれである。
このバンギラスと一緒という条件で、
町中に静かに『捕える』なんてことが不可能に近いことぐらいとっくに分かっている。
まあ今のやり取りはこの通りに来るたびにバンギラスが愚痴っているし、
ほとんど口癖のようなものなのである。
ただ厄介なのが……。
ヘル(こいつの場合、)
(本気で言ってるんだよな…今の…。)
残念そうに悪態をついているバンギラスだったが、
その目は飢えた獣のようにギラギラと妖しく光っている…。
まるで戦いを欲している狂戦士のような、
そういう危なっかしい気配をヘルガーは感じていた。
グギュルルルルルルルッ………!
ヘル「……っん?」
バン「だ~~、」
「暴れられねえと知ったら余計に腹減ったぜ…。」
ヘル「なんかおかしくないか、その空腹の根拠…。」
間の抜けた腹の虫の音が緑色のお腹から鳴り響き、
先ほどまであったギラギラした狂戦士のような気配があっさりと霧散する…。
ヘル(まったく…、)
(戦うことと食うこと以外考えてないのかこいつは…。)
はふぅっと息を吐くと彼はぴょんと人ごみを飛び越え、
大通りから外れた通りの入り口からそっとその中に入る。
後ろから慌てたようなバンギラスの声が聞こえるが、
距離も離れていないし見失うことは無いだろう…。
ヘル「まったくさっさと一人で戻ればよかったな、」
「…まあ放っておいて奴に暴れられるのも問題だが…。」
ヘルガーは路地の入口からじっとバンギラスの方を見る。
緑色の巨体はむすっとした表情のままヘルガのいる路地の方を睨んでいたが、
向こうもはぁっとため息をつくとゆっくりと歩き出した。
ぶんぶんと担いでいた木の棒を振り、
進行方向のポケモン達を無理やりどけている。
周りのポケモン達は迷惑そうにバンギラスの方を睨むが、
彼がぎろっと睨みつけるとひぃっとおびえた様な声を上げ道を譲る。
まるでヤクザのような道の開け方だったが、
これでもあのバンギラスからすればおとなしい方なのだろう…。
むしろあれくらいだったら遠目には可愛らしくさえ見えてしまう。
ヘル「…ぷっ。」
バン「おい、てめえ勝手に人を置いていって何笑ってやがるんだよ!」
ヘル「いや、悪い悪い…!」
「お前の様子があまりに滑稽だったもんでな…!」
バン「…ケッ。」
ヘル「悪かったって、」
「ほら、そんなことはもういいからさっさと行くぞ。」
不満そうな表情のままやっと辿り着いたバンギラスだったが、
彼の顔を見て可笑しそうに笑っているヘルガーの姿にさらに不機嫌な顔になる。
ヘルガーはそんな彼を軽くなだめると、
路地の奥に向かってすたすたと歩き出していった。
そんなヘルガーの後を、
バンギラスもぶつぶつと文句を言いながら歩きだ……。
バン「………ん。」
ふと一瞬バンギラスは踏み出そうとしていた足を止め、
何かの気配に感づいた野生動物のように顔を上げる。
バン「……へっ、気のせいか。」
軽く肩をすくめるようにすると、
バンギラスはそのまま路地の奥へと歩き出し始める。
※
そんな彼の様子をいくつかの影がじっと大通りから見つめていた…。
「行ったようだね…。」
影達の一匹が口を開く。
その手には一枚の紙切れが握りしめられ、
そこには大きくバンギラスの顔が描かれていた。
「せっかく見つけた大物の獲物だ、」
「あんた達逃がすんじゃないよ!」
「はい、姉御!」
リーダー格のようなポケモンがバッと路地に入り走っていくと、
その後ろを部下のような二匹のポケモン達が追いかけるように走って行く。
影達はまるで追跡でもするかのように、
そのまま彼らはバンギラス達の歩いて行った先を気配を殺しながら追いかけて行った。
※
だが彼らも気が付いていなかった、
彼らの追いかけている獲物が立ち去る間際にうっすらと笑いを浮かべていたことに……。
03 | 2025/04 | 05 |
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(・ω・)
諸注意:
初めてきてくれた方は、
カテゴリーの『はじめに』からの
『注意書き』の説明を見ていないと
色々と後悔する可能性大です。
(・ω・´)
イラスト・小説のリクエストは
平時は受け付けておりません。
リクエスト企画など立ち上げる際は、
記事にてアナウンスいたしますので、
平時のリクエストはご遠慮くださいませ!
(・ω・`)
『Sorry. This site is Japanese only』
『絵チャット入口!(・ω・)』
絵茶会にて
ポケモンバトル交流も行ってます!
(行っていない場合もあります。)
どなた様でも参加大歓迎ですので、
絵茶会中のチャットにて
お気軽にお申し出くださいませです♪
『ともだちコード名簿(・ω・)』