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フオオオオッ!
 
まさかの二日連続うたた寝に激しく驚いた。

いつ寝たのかも分からなかったんだぜ、
やーい私のばーかばーか!

また更新遅れそんなのでまさかの事前告知です、
こんなことしてる暇あったらはよ作品作れやと自分で自分を殴ってやりたいです。

J( 'ー`)し「ごめんね、アホな管理人でごめんね」

カーチャン…
(・ω・)
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紫色の生き物の腕が僕達に伸ばされ、
仲間の一人の足にむんずっと掴みかかる。

ひぃっと声をあげ彼が足をぶんぶんと振って振りほどこうとするが、
相手の腕は彼を掴んだまま離さず、
むしろどんどん足から体に向かってぐにゃりと伸ばされ、
彼の体が徐々に紫色に包まれていく。

僕の横にいた仲間がそれを見て急いで駆けだし、
掴まっている仲間を助けようと無我夢中に掴みかかる。
しかし、
彼の力でも相手を引きはがすことができず、
逆に駆け寄った彼までも紫の物体に包みこまれていき、
二匹の腕や足が苦しそうにもがいている。

とりこまれていく仲間の腕が、
助けを求める様に僕に向けて突き出されているように見える。
僕は何をしているのだろうか、
仲間がピンチに陥っているのが分かっているはずなのに、
どうしても彼らのもとへと足が進んでくれない。

怖い、
こんな薄暗く陰気臭い所、
しかもこんな訳の分からない状況でなんか死にたくない…。

どうせ僕が行ったところで彼らを助けることなんてできやしない。
僕にはそんなたいそうな力はないのだ、
僕がここで攻撃したところで彼らの二の舞になることは明白だった。
どうせ助けることができないのなら
逃げてでも生き延びるのが正しい選択なんじゃないのか?

そう思った瞬間には僕は彼らとは反対の方向へと駆けだしていた。

仲間が助けを求めている、
必死に声にならない叫びで僕を呼んでいる。

僕は両手を耳に当てて声が聞こえないようにして走り続ける、
いつのまにか目からぽろぽろと涙がこぼれていた、
僕はそれに気づくことな走り続けた。

ただただ恐怖から逃れたい、
それだけを考えながら…。



消えていく仲間たち

ルカ「今そっちに行くから!」

ルカリオはライボルト達のもとに近づこうと、
勢いをつけて対岸に飛び跳ねる。
先ほども無事に飛び越せたし、
彼の跳躍力ならこれくらいの距離造作もないことだった。

ルカ「よっ!」

タンっと軽快な音とともに、ルカリオの体がふわりと宙に浮く。
ライボルト達の傍に狙いを定めて、彼は着地の態勢を取ろうとした。

ライ「…! ルカリオどけっ!」

一瞬何が起こったのか分からなかった、
もう少しで彼の足が地面に着くというというところで、
いきなり彼の仲間によって彼は突き飛ばされたのである。

ルカ「ぐえっ!?」

咄嗟のことで何も反応することができなかった彼の体が、
どしゃあっと音を立てて床に派手に打ちつけられる。
すりむいたのか背中や足がジンジンと痛み、
ルカリオは痛む所をさすりながら起き上る。

ルカ「いったぁ…。いきなり何するんだライボる…?」

彼の言葉が途中で掠れる様に途切れる、
なぜなら先ほどまで以上のなかったライボルトの体に、
紫色をした奇妙な物体が覆いかぶさり、
彼の体をじわじわと包み込んで行っていたのである。

ルカ「な…!?」
ライ「うぐっ…。ルカリオ…平気だったか…?」

口を開けて驚くしかできない彼に、
苦しそうな声でライボルトが声を上げる。

ルカリオが飛んだ瞬間、
ライボルトはそばにあるパイプの中から奇妙な音が聞こえた気がしたのである。
気になってちらっとパイプの中を覗き込むと、
白い生き物の目がにやりとパイプの中で笑い、
今まさに着地しようとしているルカリオに狙いを定めていたのである。

ライボルトは慌ててルカリオに伝えようとしたが、
すでに宙を浮いている彼に何を行ったところで間に合わない。
その上パイプの中にいた生き物もルカリオに飛びかかろうと、
勢いをつけ始めていたため、
今から電撃を充電しても間に合わない…。

だから彼には確実にルカリオを助ける手段は、
もうこれしか思いつかなかったのである。

ライ「あぐぅ…うあぁ…。」
ルカ「ライボルト!」

ルカリオは苦しそうに呻く仲間を見て急いで立ち上がり駆けだそうとする、
だが…。

むぎゅうっ…!

ルカ「え、うわぁ…!?」

突然何者かに足を掴まれ、
再び彼の体はびたんと床に激突する。
痛みをこらえてルカリオが顔を上げると、
下水の水路からライボルトを包んでいるものと同じ生き物が、
彼の足をがっちりと掴みニタニタと笑っていた。

ルカ「こいつらは…。」

『ベトベター』、
薄暗く汚い場所やゴミ捨て場などの人の寄り付かない場所に住み着き、
体中がヘドロでできていると言われているポケモンだった。
ルカリオは記憶の中の相手の情報を思い出すと、
歯がゆそうにぎりっと歯を食いしばる。

うかつだった、
この下水道という場所ならこいつらにとっては絶好の住処である。
他のポケモンに出くわさなかったことから、
ここにポケモンは住み着いていないと勝手に思い込んだ彼のミスだった。

じゅるう…じゅうう…!

ライ「うあっ…!」

突然ライボルトの悲痛な悲鳴が聞こえ、
ルカリオは大使を変えて彼の方を見る。
ライボルトを包み込んでいる液体から微かにしゅうしゅうという音が聞こえ、
うっすらと白い煙が彼の体から立ち上っている。

ルカ「まさか、【ようかいえき】!」

話には聞いたことがある、
どくタイプのポケモンが持っている強力な酸をもった液体の攻撃、
あんな逃げ場のない状況で繰り出されればひとたまりもない技である。

ルカ「ライボルトはやくそこから逃げて!」

ルカリオの必死な叫び声が水路に響き渡る、
彼自身が飛び出せればいいのだが、
がっしりと掴まれたベトベターの腕がどんなに力を込めても外れないのである。

ライ「あぐ…。」

苦しそうに瞑っていたライボルトの目が、
ルカリオの声に反応してうっすらと開く。

ライ「ぐぅっ…ルカリオ…。」

とりあえず無事なルカリオの姿を見て、
彼は心の中でほっとする。
妙に体中から力が抜けていき、
頭の中もクラクラと目眩がしているが、
それでも仲間が傷ついていないことを確認できたことが何よりも嬉しかった。

彼にとって一番嫌なことは、
彼の見ている前で仲間たちがひどく傷つくのを見ることであった。
なぜ自分ではなく他人を見るのがそんなに嫌なのかは分からないが、
とにかく嫌なものは嫌なのである。

彼にはルカリオのように冷静に戦局を判断したり、
リザードのように的確な援護攻撃を繰り出すような頭を使った戦い方は向いていない。
だからこそ彼は普段からも仲間たちよりも一歩前で戦い、
仲間が傷つく前に敵を倒すのが彼のスタイルだった。

ライ(我ながら、不器用な戦い方だよな…。)

痛みをこらえライボルトはそんなことをぼんやりと考える、
こんな状況でこんな場違いなことを考えるなんて、
まるで走馬灯のようだなと彼は心の中で自嘲する。

ライ「ルカリオ…!」
ルカ「…!」

彼は掠れかけている声で仲間の名前を叫ぶ、
それに応えるかのようにルカリオはぴくっと顔を上げると、
すでに顔の大部分を包まれているライボルトと目があった。

ライ「頼む…お前だけでも…ここから…逃…げ…。」

彼の言葉が最後まで紡がれる前に、
ベトベターの体がすっぽりと彼の体を包んでしまう。
苦しそうに蠢くライボルトの体が、
徐々に動きが弱くなっていく。

ルカ「く…くっそぉ、放せ、放すんだ!!」

ルカリオは死に物狂いでこぶしでベトベターを殴りつけたり、
掴まっていない方の足で蹴りつけたりする。
しかしぶにぶにと敵の体が歪むだけで、
まったくダメージを与えることはできなかった。

ずるぅ…ずるずる…

ルカ「…!くっそ待てよ、止まるんだ!!」

ベトベターの動く音にルアリオは再び振り向いて必死に止まれと声を上げる、
しかし水路に近づくベトベターはちらりと振りむくだけで、
決してその歩みを止めようとはしなかった。
そして敵の体のぷっくりと膨らんだ部分はすこしもぞっと動くだけで、
もうほとんど抵抗する力さえ残ってはいないようだった。

ずるずる…ずるずる……

ベトベターは水路の傍まで近づいていき、
飛びこめる手前で一度止まった。
そしてルカリオの方を見てにんまりと口の端をつり上げて笑うと、
勢いよく水の中に飛び込んでしまう。

ルカ「やめろ、やめろおぉぉぉ!!」

ルカリオの必死な叫び声もむなしく、
彼の仲間を捕らえたベトベターは暗い水の底に沈んでいき、
やがて見えなくなっていった…。
何が起こっているのだろうか…。

僕らの目の前まで迫ってきていたおたずねものの姿はかき消え、
彼の立っていた場所に不気味な紫色の液体がグニャグニャと蠢いていた。

その大きさは先ほどのおたずねものと同じ大きさで、
時折中から腕のような形をしたものが突き出しては、
押し戻されるようにまた液体の中に引きずり戻される。

「あ…あああぁ…。」

誰の声だったのだろうか、
僕たち三匹の誰かが掠れる様な恐怖の感情を帯びた声を発すると、
紫色の物体がぎょろっとこちらを向く。

その物体には白い色をした目が二つ付いており、
僕らを見つけるとにんまりとその目が笑う。

そしてそいつの口のような部分に、
あのおたずねものの腕が呑みこまれるようにずぶずぶと沈んでいく。
その手は開いたり閉じたりを繰り返し、
やがて液体の中に完全に吸い込まれ消えてしまった。

僕らが恐怖にすくみ動けないでいると、
やつはずるずると地面をはいながらこちらに近づいてくる。

次の獲物を捕らえるために…。


ターゲット発見

ライ「遅い、なにしてんだあいつ…。」

ライボルトの不機嫌な声がルカリオの耳に届く、
彼が振り返ると声の主は今しがた歩いてきた暗い水路の奥を、
赤い明かりがこちらにこないか立ち止って様子を見ていた。

ライ「たくっ…、どこまで行ったんだあいつは。」
ルカ「まぁまぁ、落ち着いてよ。」

ぶつぶつと文句を言うライボルトをルカリオは慣れた口調で優しくなだめる、
こんなことぐらいは日常茶飯事なのである。

このライボルトはなんだかんだ言いながらも、
メンバーの中で一番仲間への気遣いが出来るやつであり、
いわゆる心配症なのである。

まあ本人にそのことを指摘すると、
ふてくされるように不機嫌になるので言わないが…。
おそらく、
リザードに付いていかなかったことを内心後悔でもしているのだろう。
素直じゃないんだから…。

ライ「…なんか言ったか?」
ルカ「ん、いや何も!」

一瞬考えていることが彼に読まれたのではと思い、
ルカリオは慌てたようにライボルトに答える。
不審そうに眉をひそめているので、とにかく話題を変えることにした。

ルカ「それにしてもおたずねもの見つからないね、
    もう結構奥まで来ていると思うんだけど…。」
ライ「…確かに。」

ルカリオの言葉にライボルトは同意するようにうなずく。
かなり長い時間このお世辞にも居心地がいいとは思えない下水道を歩いてきたが、
ヨーギラスどころか他のポケモン一匹見かけない。
まるで彼ら以外の生物など、
この空間には存在していないようだった。

どこまでも静かに広がる地下空間に、
二匹は少し肌寒いものを感じる。
できることならあまり長いはしたくなかった。

ルカ「とにかく早くヨーギラスを見つけて、
   そしたらリザードを探しに戻ってこようよ。」
ライ「仕方ないか…、たくあいつのせいで余計面倒に……。」

ふいにライボルトの声が途絶え、
ルカリオは不思議そうな顔をしながらライボルトの顔を見る。
彼の仲間の視線は水路の奥を見つめたまま、
まるで睨みつける様に固まっている…。

ルカリオはその視線を追うように、
ライボルトの見つめている方向に目を向ける。

すると彼らから離れた通路の方で、
他の壁に走るパイプに比べてひときは大きいパイプの奥から、
何か生き物のような小柄な影が這い出ようとしていた。

ルカ「まさか、あれは…。」

ルカリオが言葉を漏らした瞬間、
ライボルトの姿がすぅっと前に進み出たと思うと、
彼は地面を蹴って水路を飛び越えんばかりに宙へと飛翔する。

ルカ「え…ちょっと!?」

唐突すぎる仲間の行動にルカリオは慌てて声をかけるが、
すでに宙へと駆けるライボルトには声は届いていないようだった。

ルカ「もう、作戦とか考えてよ!」

ぶつぶつと小声で文句を呟きながら、
ルカリオも急いで彼の後を追った。

一方反対側の岸では、
薄汚れた格好で這い出てきたヨーギラスが、
よいしょっとパイプの穴から下水の地面に降り立ったとこだった。

ライ「うごくなぁっ!!」
ヨギ「…へっ?」

ライボルトの叫び声に、
暗いパイプから抜けでたばかりで、
不意をつかれたヨーギラスの顔がぎしっとこわばる。

あわてて彼が辺りを見回すと、
彼のすぐそばに黄色い犬のようなポケモンが軽い身のこなしで着地したところだった。

ヨギ「な…探検隊!?」
ライ「ああそうだ、悪いがお前を捕まえに来たぜ!」

ライボルトは戦闘態勢をとりながら、
地面をしっかり踏みこみいつでも駆けだせる状態にする。

ライボルトが威嚇するように静電気を走らせていると、
遅れてルカリオが彼の後ろに着地した。

ルカ「まったく、いきなり飛びこむなんて…!」
ライ「もたもたしてたら逃げちまうだろうが、
   手間が増えた分急いでこいつを片づけねえと…。」

ルカリオはライボルトの声を聞きながら、
おたずねものの持っている荷物に目を向ける。
敵の手には大事そうに小さな布袋が握りしめられており、
袋の中には球状の物体がいくつか入っているようだった。

ルカ「あれが依頼品のふしぎだまみたい。」
ライ「よっし、あいつを取り返せばいいんだな…!」

やっと捕らえたターゲットに、
ライボルトの目つきが楽しそうにつり上がり、
口元がにぃっと笑みをかたどる。

ヨギ「くっ…くそー。
   これでも喰らえ!!」

ヨーギラスは追いつめられたことを悟ると、
ライボルトとルカリオに向けて水路の汚泥を投げつける。
【どろかけ】とよばれる彼の得意技は、
当たれば命中率を下げることがある便利な技である。

この技の能力のやらしさ経験上身にしみて知っている上に、
敵のタイプである地面は二匹にとって苦手なタイプである。
当たってしまえば一気に形勢逆転され、
下手をしたら逃げられてしまうかもしれなかった。

ただし、
それは敵の技がちゃんと当たった場合の話である…。

ルカ「おっと、危ない危ない♪」
ヨギ「なっ!?」

彼の技がルカリオに当たる瞬間、
ルカリオは当たるすれすれで技をかわしてしまった。
ルカリオの防御の技【みきり】が使われたのである。

ヨーギラスの放った【どろかけ】は、
彼らとは違うあらぬ方向に飛んでいき、
壁に当たって空しくはじけてしまった。

ルカ「はぁっ!」
ヨギ「うぁ…がふっっ!?」

ヨーギラスが技をかわされたショックを受けていると、
【みきり】でかわしたスピードのまま、
ルカリオは回転するようにヨーギラスに蹴りを叩きこむ。

小柄なヨーギラスの体はそれだけでいとも簡単に吹っ飛び、
彼の手から持っていた盗品の荷物が離れていく。

派手に水しぶきをあげてヨーギラスの体が水路の中に落ちると、
それと同時に地面に落ちた布の袋からふしぎだまがいくつかころころと飛び出し、
ルカリオの周囲に転がった。

ルカ「ライボルト、お願い!」

ルカリオの掛け声に、
ヨーギラスははっとしたように上を見上げる。
そこにはふたたび地面を蹴って飛び上り、
彼の真上に浮かんだライボルトの姿があった。

ライ「とどめだっ!」

ライボルトの体が黄色に輝くと、
彼の体から【電気ショック】が水の中にいるヨーギラスに放たれる。

いわずもがな、
水は電気をよく通すため…。

ヨギ「う…うわぎゃあああああ!!」

激しい閃光とともにヨーギラスに雷の束が命中し、
甲高い絶叫とともに体中にビリビリと電流が駆け巡り、
彼はあっというまに意識を失った…。



ストンとまた反対側にライボルトが着地すると、
彼はにっと笑って対岸の仲間を見る。

ルカリオもヨーギラスを転送するためにバッジを取り外しながら、
成功したことを確かめる様にぐっと指を突き立てた。
見つけた…。

下水道の奥の奥、
手配書に乗ったいかついポケモンが一匹でぽつんと座り込んでいた。
僕達はいきなり攻撃されてもいいように警戒しながら近づく、
すると相手はこちらに気がついたのかゆっくりと顔をあげた。

僕達は一瞬混乱した、
相手の表情は捕まることへの焦りでも、
僕達に対する恐怖でもどちらでもない。

安堵

まるで助けが来たとでも言わんばかりに、
その顔はぱぁっと明るくなりぱくぱくと口を開けたり閉めたりしている。

「助けてくれ、早く…早くここから連れ出してくれ!」

彼は僕達に救いの手でも伸ばすかのように、
立ち上がり僕達のもとへ駆け寄ってくる。

だけど、
僕達と彼の間に何か壁のようなものが急に伸びあがり、
彼の悲鳴が暗い下水道に反響するように響き渡った…。




 
べちゃあ…!
 
じめっと湿った空気の漂う地下の下水道、
その道をゆらゆらとほのかに輝く炎を揺らめかせて、
リザードがとぼとぼとひとりぼっちで歩いていた。

ずいぶんと疲れているのか、
はぁはぁと浅い呼吸を何度も繰り返し、
時折ふらつくように足がもつれそのたびに壁に手をついて体を支える。

リザ「はぁはぁ、やっぱり変だよ…。」

彼の手には何本ものきのえだが握りしめられている、
仲間たちと別れ、
ルカリオの言うとおりに点々と落としておいた道しるべである。

トイレをすませ、
彼は急いで仲間たちのもとへ戻るべくこの目印を拾い集めながら、
心細いのをこらえてここまで歩いてきたのである。
しかし、
歩けど歩けど一向に仲間たちの姿が見えてこず、
そのうえ気のせいさっきは通っていなかった場所を、
ぐるぐると歩いているような気さえするのである。

リザ「ここ…、本当にさっき通ったっけ…?」

一度足を止め呼吸を整えながら、
リザードは辺りを見回し景色を思い出す。
だがこの地下水道の道はどこも同じような作りだし、
急いでいた彼が通った道を正確に覚えているわけでもなかった。

リザ「…間違ってるわけないよね、
    きのえだちゃんと落ちてたんだし…。」

彼は自分に信じ込ませるようにぎゅっときのえだを握り締める、
きっと仲間たちの進む速度が速すぎて追いつけないだけなんだと信じ、
彼はふたたび暗い道を歩き始める。

そうでもしないと不安で押しつぶされてしまいそうだったのだ…。





どれくらい歩いただろうか…

リザ「……うそ。」

リザードは正面を見つめたまま絶句し立ちすくむ、
なぜなら彼の目の前にはいくつものパイプが走るだけの壁、
すなわち行き止まりしかなかったからである。

そこに彼の見知った仲間たちの姿はどこにもなかった…。

リザ「…なんで、目印はちゃんとたどってきたのに…。」

彼の両手には数えきれないほどたくさんのきのえだが収まっている、
すべて彼がここまでに拾って来た目印のはずだった。
彼の仲間たちが進みながら落として行っているはずの目印が、
なぜ行き止まりで途絶えているのだろうか。

リザ「仕掛けとか…無いよね…?」

彼はすがるような思いで壁をぺたぺたと触ったり、
空いた手で叩いてみたりと思いつく限りの方法で壁を調べる、
しかし結局何も起こらず彼は途方に暮れてしまった。

リザ「どうなってるんだよ…。」

彼はずるずると崩れ落ちるに座り込む、
すでに足はガクガク震えるほどに疲れ切っており、
体力もほとんど使いつくし、
ぜえぜえと荒い息が口から洩れてきていた。

なにより、
仲間たちと合流するという意気込みだけでここまで歩いてきた彼に、
目の前にある信じたくない現実が厳しすぎたのかもしれなかった…。

リザ「ルカリオ…ライボルト…、どこにいるんだよぉ…。」

彼はどこに行ったか分からない仲間たちの名前を泣きそうな声で呟く、
名前を呼べばもしかしたら出てきてくれるかもしれないと、
僅かな希望をこめて仲間の名前を何度も呟いた。

「おぉぉぉぉ…。」

リザ「…!」

微かに何かの声がリザードの耳に聞こえた、
しかしそれは到底仲間たちの声ではない…。
もっと低い唸るような声だった。

リザ「……誰…!」

リザードはきっと目つきを鋭くし、
もと来た通路の方を目を凝らして睨みつける。

ずるっ…ずるっ……

どこからか分からないが、
まるで何かを引きずりながら這っているような音が、
彼のもとに近づいてくる。

静かなこの地下ではその音が不気味に反響し、
正確な位置までは彼には分からない…。

リザ「くっ!」

リザードはすくっと立ち上がると、
背後を取られないように壁際に体を近づけ、
通路の方から来るものだけに集中する。

心身ともに疲れ切り仲間ともはぐれて孤立しているとはいえ、
彼とてシルバーランクの探検隊の一員である、
こういった状況でどうすればいいかぐらいは心得ているつもりだった。

ごくっ…

彼は焦る気持ちを抑えて唾をのみこみ喉を鳴らす、
一匹での戦闘も何度かはやったことはあるものの、
それはルカリオやライボルトの指示やアドバイスがあったからこそである。


正直いって、
彼はあまり自分から戦いを仕掛けたり、
逆に自分だけで戦術を考えるというのは苦手であった。

彼の考える戦術なんかよりも、
他の二匹が考える方法の方が何倍もうまくいくし、
頼りになるからである。


だから今自分の取っている対応が正しいのかどうか、
彼には分からない。
その不安が彼の恐怖をさらに強くして行っていた…。

リザ「く…、来るなら来てみろ…!」

彼はとにかく不意をつかれないよう、
ぶんぶんと首を振って余計な考えを捨て守ることだけを考えた。
彼一匹で戦い抜くよりも、
隙をついて逃げた方がこの場はいいと判断したからだった。

ずるぅっ…ずるずる……

不気味な音が近づいてきて、
彼の背筋にもつーっと冷たいものが走るような感覚が通った。

とにかく最初の攻撃をよけること、
最初さえよけさえすれば逃げるにせよ戦うにせよ、
いくらでも対応することができるはずだった。


その考えは決して間違ってはいなかった、
しかし彼には敵の攻撃を避けることはできなかった。

敵の方がリザードよりも何倍も狡猾だったのである。


ずるぅ……どろおぉっ…べしゃぁあっ!!

リザ「え…、う…うわぁぁ!?」

リザードの体に突然紫色のドロドロとした物体が、
彼にのしかかるようにべっとりとひっついてくる。
意志を持っているかのようなその生き物は、
彼の背中から体中に這いまわり、
顔や手足に覆いかぶさっていく。

リザ「うぁ…なん…うぶむぅ…!」

突然の襲撃者に何の抵抗もできず、
リザードはされるがままに体の自由を奪われていく。

よけることなんてできなかった、
襲撃者は壁に走ったパイプの中を通って彼に近づいていたのである。

予想外の場所からの攻撃に反応することのできなかったリザードは、
すでに両手足が謎の物体に呑みこまれ、
反撃することも逃亡することもできなくなっていた。

リザ「むぶっ…うっむ…むぅ…!」

彼の体が頭から足まで紫色のドロドロに包まれる、
ひんやりと冷たいその物体が彼の口や鼻を押さえつけ、
息をするのも困難になってくる…。

リザ「むぐっう…うぐぅぅ…むっ!?」

リザードは必死にもがき何とか襲撃者を引きはがそうと、
顔中にくっついてくる物体を無理やり両手でつかもうとする。
しかし抵抗しようとしたその刹那、
彼の体はまるで【かなしばり】にでもあったかのようにぎしっと強張り、
腕どころか指一本すら動かせなくなってしまう…。

リザ「う…むぅ…。」

段々と息が苦しくなってきて、
頭の中がぼんやりと霞んでくる。
すでに敵は彼の尻尾の先まですっぽりと包みこみ、
まるでリザードサイズの紫のゼリーでも立っているかのようである。

襲撃者は彼の体にぐにゃぐにゃと絡みつきながら、
彼を下水の水際まで引き寄せていく。
どうやらリザードを水の中に引きずり込む気のようである。

リザ「…。」

途切れる寸前の意識の中、
彼の心の中では最後まではぐれた仲間たちの心配をしていた。

こんな化け物がこの水路にいる以上、
彼は自分のことより他の仲間の方が心配だった。

リザ(ルカリオ…ライボルト……。)

最後にもういちどだけ彼は仲間たちの名前を呟いた、
せめて彼らが無事にここから出ていることを信じて…。

そこで彼の意識はふっと消え失せ、
ザブンと水しぶきをあげて彼を包んだ生き物は水の中に消えていく、
しばらく水面に浮かんでいた泡もやがて水に溶ける様に見えなくなった。


リザードのいた場所には、
彼の拾って来たきのえだが寂しくぽつんと残されて転がっていた…。
薄暗い地下道の中を僕たちは固まるようにして歩いていく、
僕はともかく後ろの二人は見るからにここにいるのが嫌そうで、
最初は普通に話していたのに、
奥に進むごとに口数もだんだん少なくなってきている。

僕だってこんな陰気臭い所は早く出たい、
でもこれも仕事なんだから仕方ない。
僕は持っていたおたずねものの手配書をぐっと握り締めると、
二人を元気づけながらどんどん奥へと進んでいった。


トイレ…
 
リザードの尻尾を頼りに、
三匹は暗い地下水道の道をすたすたと歩いていく。
入口ではカビ臭いだけだった子の水道も、
奥に行くにつれて悪臭と呼んでもいいような酷い臭いが漂い始めてくる。

ライ「くー、鼻が曲がりそうだな…。」
ルカ「ほんと、これはいきなり襲われたりしたら危険だね…。」

ライボルトが顔をしかめて嫌そうに言うのを、
ルカリオが冷静な口調で同意する。
彼ら二匹は鼻が利くため、
こういった臭いのキツイ場所は正直苦手である。

ルカ「これは『ヨーギラス』を見つけるのも手間取るかも…。」

いつもならライボルトの鋭敏な嗅覚や、
ルカリオの視力で目標を見つけ、
リザードが追い込んで捕まえるというのが彼らの一番取る作戦なのだが…。

ルカリオは辺りを鋭い目つきで見渡す、
薄暗く複雑に広がっているこの水道では、
彼の自慢の視力もほとんど役に立っていなかった。
恐らくライボルトの鼻もこの場所の臭いにかき消されて、
正確に追うことは難しいだろう。

ルカ「やっぱ地道に歩いて探すしかないかな。」
ライ「まぁ、仕方ないか…。」

ルカリオの出した結論に、
二匹はため息をついてあきらめたように歩き続ける。
ふと、
さきほどからもう一人の仲間がずっと黙りっぱなしだったことに気づく。

彼らが後ろを振り返ると、
リザードはうつむいた姿勢のままとぼとぼと歩いてきていた。

ライ「おい、何やってんだよ置いてくぞ!」
ルカ「どうしたの、気分でも悪くなった?」

二匹の問いかけにリザードはぶんぶんと顔を振って、
『なんでもない』という意思を示す。
しかしうつむいたままであきらかに元気なさそうに歩いているのが、
なんでもないわけない。

ライ「まさかとおもうが、
   本当に怖くなって逃げたいんじゃないだろうなぁ…?」

ライボルトが前足でぽりぽりと頭をかきながら、
ルカリオにぼそりと呟く。
さすがにいくら怖いとはいえあそこまで黙りこむこともないと思うのだが…、
ルカリオは心配そうにリザードのもとに駆け寄る。

ルカ「大丈夫、なんか調子悪いなら無理しなくても…。」
リザ「いや…、別にそんなんじゃないから…。気にしないで…。」

リザードの様子にルカリオは眉をひそめる、
彼の声の調子が妙に上ずっている気がするし、
それに変に体を揺らしてもじもじとしている。
もしかして…。

ルカ「あの、もしかしてトイレ行きたいんじゃ…。」
リザ「…!」

ルカリオの言葉にリザードはドキッとするように反応する、
どうやら図星のようだった。
少し離れたところでライボルトが心底ため息をつき、
機嫌悪そうに声をかけてくる。

ライ「あのなぁ、
   トイレ行きたいぐらいだったらとっとと行ってくればいいだろうが!」
リザ「う~、だ…だってぇ…。」

ライボルトの言葉にリザードは情けない声を出して反論する。
ひとりで行けるならここまで我慢はしないだろう、
入り口でのやり取りを見てればなんで一人で行かないかくらい大体想像もできる。

ライ「たく、だったらその辺ですればいいだろ!」
リザ「嫌だよそんなの…!」

リザードは心細そうにルカリオを見つめる、
あきらかに着いてきてほしそうである。

ルカリオも頬をかきながら二匹の会話を聞いていた、
リザードには悪いが今はおたずねものの追跡中であり、
できれば他のことであまり時間を取られたくはなかった。

ルカ「ごめん、悪いけど一人で行ってきてくれる…?」
リザ「はぁ、やっぱりそうだよね…。」

リザードがさみしそうに今来た道とは別の方へ歩いていこうとするのを見て、
ライボルトは慌てたように声をかける。

ライ「おい、どこでしてくるつもりだよ…。」
リザ「もう、できるだけ離れたとこに決まってるでしょ!」
ライ「あのなぁ、こんな暗い中はぐれたらどうする気だよ!」

確かに、
いくら恥ずかしいとはいえあまり離れすぎればはぐれてしまう可能性がある。
とはいえ、
だからといってここで彼の帰りを待っていては結局時間のロスだった。

ルカ「うーん、あ、そうだ!」

ルカリオは何かを思いついたように突然持っていたカバンをごそごそと漁りだし、
何かの束を採りだすとリザードに手渡した。

リザ「なにこれ?」
ルカ「『きのえだ』だよ、これを一本一本落として道しるべにしなよ。」

彼の手渡したのは小ぶりのとがったきのえだだった、
本来なら投げて武器として使うこれを、
目印にしようと思ったのである。

ライ「まあ、それなら道に迷う心配もないか…。」
ルカ「でしょ、でもなるべく早めに戻ってくるんだよ!」
リザ「うん分かった、じゃあ悪いけどちょっと先に行っててね。」

そう言うと、
リザードは薄暗い道を小走りでかけていき、
やがて彼の尻尾の明かりが見えなくなった。

ライ「まったく、緊張感のない奴だな…。」
ルカ「まあまあ。さぁ、僕らも行こう。」

リザードがいなくなったことで、
辺りは完全に暗闇に包まれていてこのまま進むのは危険そうである。

ルカ「えっと、たしかかここに…お、あった!」

ルカリオはカバンの中から青い玉を取り出すと、
ぎゅっと念じるように握り締める。
すると彼らの周囲をぼんやりと白い明かりが灯り、
暗かった道を明るく照らし出した。

『ひかりだま』

道が複雑に入り組むダンジョンを明るく照らす道具で、
リザードを連れていない時の彼らの明かり代わりだった。

ライ「まあこんなもんか、早く行こうぜ…。」
ルカ「うん。」

そう言うと彼らはリザードに分けていない分のきのえだを落としながら、
暗い水道の奥へ進んでいった。



彼らが立ち去った後、
静かに流れる下水の水の中から何かの腕がぬうっと通路の上に伸びてくる。

その腕は彼らの落としていったきのえだをあらかた拾い集めてしまうと、
まるで引きずり込むように水の中に持って行ってしまい、
音もなく水の中に気配を消していった…。
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(・ω・)

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『注意書き』の説明を見ていないと
色々と後悔する可能性大です。
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更新日 2014年  1月17日
  少ないけどとりあえず新規イラストに変更
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