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花とねむり




醜悪な笑みを浮かべながら、
アーボはゆっくりとその巨体を弱った獲物のほうへと近づかせていく。
もう別に急ぐことは無い、
この獲物も今までのやつと同じように彼の術中に完全にはまっているのである。
こうなってしまえば後は煮るなり焼くなり好きにすればいい、
…もっとも彼の目的は生のままの丸呑みだが…。

グマ「ぐ…くぅ…!」

マッスグマは迫ってくるアーボを見ながらも、
必死に動かない足に力を込める。
あきらめてしまえばそこで彼の負けであった、
なんとしてもこの場から逃げ伸びなくてはならない。

だがどくにマヒと体の異常のうえに体力のほうも徐々に衰弱してきている、
どんなに強がっていたってこの状況を打破できなければ、
間違いなく彼はアーボに呑み下されてしまうだろう、
そんなのはごめんである。

だがいくら心の中で反抗していても、
敵はぼたぼたと唾液を地面に垂らしながらこっちに近づいてきていて、
今にもあの大きな口でばくりと喰らいつかんばかりである…。

グマ「くぅっ……ここまで…なのか…。」

残念だがマッスグマよりもアーボのほうが、
明らかに戦い慣れをしているようであった。

マッスグマは悔しそうに歯を噛みしめ、
半ばあきらめかけたように頭を垂れる…。

……こんっ。

グマ「……ん。」

ふと背負っているリュックの中で、
何か小さな塊が転がったような気がした。

朦朧とする意識の中で、
マッスグマは訝しげに眉をひそめる。

道端で見つけたものはその場に捨ててきていたはずだし、
何か他にリュックに入れていただろうか…?

彼はつらつらと記憶を思い返す。

グマ「リュック………そうだっ!!」

不意にある可能性に気付き、
急にマッスグマの顔に生気が戻ってくる。

リュックの中には昼食代わりに入れていた木の実が入っていたはずである。
確かルギアの説明の中には、
マヒやどくを治療してくれるという木の実の説明もあった…。
もしかしたらこのリュックの中にも入っているかもしれない。

グマ「うっくっ……ぬぅぅぅぅっ!!」

マッスグマは迫ってくるアーボに警戒しながら、
力を込めて何とか痺れる腕を背中のリュックの中に押し込む。

だがしかし、
後はリュックをお腹のほうにずらせればいいのだが、
体中がビリビリと痺れていて思うように持ってくることができなかった。

そうしている間にも、
すでにアーボは目の前まで迫ってきている…。

グマ「くそ…急がないと……、ひぐっ…!!」

がさごそとリュックを漁るマッスグマの頬を、
何かぬるぅっとした奇妙な感触が伝わり、
ぞぞぞっと悪寒が走る。

目線だけで見ると、
アーボの頭がまさに目と鼻の先まで近づき、
彼の頬にべろりとその舌を這わせている。

グマ「うあっ…や…やめ…!うわ…ひゃうっ…!!」

アーボのぬるぬるとした舌が、
マッスグマの体をべろべろと這わせるように舐めあげ、
その気味悪い感触を何度も何度も繰り返されるが、
彼はただひたすら耐えることしかできなかった。

べとっとした唾液が彼の体毛を濡らし、
自慢の尻尾も満遍なく舐めとられ、
ふさふさしていた毛がべたぁっと垂れている。

やがて、
しゅるるるっと長い舌がアーボの口の中へと戻っていき、
味を確かめるようにれろれろと口の中で反芻している…。

マッスグマはぜぇぜぇと荒く呼吸をし、
疲労を感じながらもリュックに入れた手だけは必死に探りを入れている。

しゅぅぅぅぅ……。

アーボの口が僅かに開き、
その熱い吐息がマッスグマにかかる。
何匹も獲物という名のポケモン達を飲み込んできたその口からは、
血と獣の臭気が混じったような不快な臭いが漂っていた。

アーボは凍てつくような視線で彼のことを見つめ、
その味に満足したのか口の端をにぃっと吊り上げて笑う…。

グマ「ううっ…!」

マッスグマの背筋がぞーっと冷たくなり、
体中から嫌な汗がたらたらと流れてくる。
もうほとんど時間は残されていないようだった。

マッスグマは深呼呼吸をすると、
指先に神経を集中させ手探りで目当ての木の実を探す。

ルギアの言っていたことを集中して思い出すが、
正直なところ探し当てられる自信は無い…。

一か八かの賭けだったがやらないよりマシだった。

グマ「………これだぁっ!」

マッスグマは探り当てたふたつの木の実をリュックから掴みだすと、
リュックから引きずり出し口の中に押し込んだ。

マッスグマの不可思議な行動に、
相手のアーボは不思議そうに首をかしげるが、
彼は構わずその木の実を噛み砕くとごくりと飲み込む…。

味わってる暇などなくほとんど一気食いだったが、
彼の喉をぴりっとした辛味と、
どろっとした甘い味が複雑に絡み合いながら流し込まれていった。

グマ「…っぷ…はぁ!」

木の実を飲み込むと、
マッスグマの体をぽぅっと暖かな光が包み込み、
今までの苦しさが嘘のように体が楽になり、
体中を縛っていた痺れがすぅーっと引いて行った。

グマ「き…利いた…のか………っ!」

マッスグマはどくやマヒが消えたのを感じ取り、
心の中で安堵の息を漏らす…。

と同時にアーボの大きな口ががばっと開けられ、
彼をもういちど味わおうと長い舌がにゅるーっと伸ばされてきた。

グマ「…何度も舐められてたまるかぁっ!」

マッスグマは自由になった腕に力を込めると、
爪をむき出し渾身の力でその舌を振り払う。
【きりさく】と呼ばれるその技がアーボの舌に命中し、
アーボの口の中に不快な鉄のような味が広がった。

……っ!!?

これに驚いたのはアーボのほうである、
もう動けないと思っていた獲物が突然元気になり、
そしてこれまたいきなり彼に向かって攻撃を繰り出してきたのである。

今まで何匹も獲物を仕留めてきたが、
今回のように食べる直前に反撃してきた相手は初めてのことだった。

マッスグマは攻撃が利いたことを確認すると、
一歩二歩と後ずさりアーボから距離をとった。

グマ「へ…、あんまり舐めないでもらおうか…!」

精一杯アーボをにらみつけながら、
彼はふらつく体で何とか体勢を立て直そうとする。

いくら体の異常が治ったとはいえ、
さすがに失った体力までは戻り切っていないのである。
今の攻撃でさえ、
疲れ切ったマッスグマには虚勢に近い攻撃だったのだ…。

だがそうとは知らないアーボのほうは、
マッスグマに少し警戒する姿勢を見せる。

彼の特異な攻撃が利かない相手というのは初めてだったが、
だからといってこんな大物の獲物をみすみす逃す気は無い。
どくやマヒのような攻撃が利かないのであれば、
物理的に弱らせればよいだけであった…。

その考えに至ると、
アーボはその巨体を思い切りくねらせ、
マッスグマに向けて丸太のように太い胴体で薙ぎ払った。

グマ「…うあ………ぐがっはぁぁっ…!!?」

容赦のない一撃がマッスグマの腹に深々と命中する、
その重い攻撃は彼の軽い体を吹き飛ばすには十分な威力をもっていた。

まるで小石でも蹴飛ばした時のように、
彼の体がびゅんと風を切るように飛んでいき、
途中貫通するように通り抜ける茂みの枝をバキバキと折りながら、
彼の体が地面に墜落して行った。

ズガッ…ズガガガガガァッ……!!

グマ「がぁぁ…っ!」

ごろごろと転がるように草むらの中を転がっていき、
ようやく彼の体が花の生えた茂みの中で停止した。

グマ「うっ…かはっ……げほっげっほ…!」

マッスグマはよろよろと四つん這いに立ちあがると、
先ほどよりも荒い呼吸を繰り返す。

目尻に涙を浮かべ、
体中の酸素を吐きだしたみたいに胸が苦しく、
体のほうもあちこちすり切れていた。

むしろ骨が折れていないだけ奇跡に近かった、
落ちた場所が草むらや花の上だったのが幸いしたらしい…。
彼の座り込んでいる花達が苦情を言っているかのように風に揺れ、
甘い香りが優しく周囲を満たしていた。

グマ「げほっ…へ…へへへ……、
   かな…りきついけど…うまく…行ったみたいだな……。」

満身創痍になりながらも、
マッスグマは微かに不敵な笑みを浮かべた。

この吹き飛ばされるというのも彼の賭けのひとつだった、
体力が戻らず走って逃げるのが困難だと思った彼は、
敵であるアーボ自身に距離をとらせようと考えたのである。

体へのダメージという代償も大きいこの作戦だったが、
おかげでずいぶんとアーボとの距離が離れたのか、
敵のほうも慌ててこちらを追いかけてくるような気配が感じられる。

グマ「へへ…ざまあみろ…、
   こんなところで喰われてたまるもんかってんだ……!」

マッスグマはそう呟くと背中のリュックを手元に置き、
ごそごそとリュックの中に手を入れる。

さっき探ったときに、
リュックの中に体力回復の力を持つオレンの実が入っていたのに気が付いたのだ。
だからこそこんな無茶な作戦に出れたのだが…。

ここで少しでも回復して動けるようになれば、
後はアーボに見つからないようそっとここから逃げ出すだけ…。
どたんばで練った作戦だったが、
どうやらこのままいけばうまくあいつから逃げることができそうだった。

マッスグマは少し安心したように笑うが、
ふとリュックの中にオレンが入っていないことに気がついた。

グマ「あれ…、確か入ってたよな…?」

マッスグマは少し不安そうに顔をしかめると、
きょろきょろと辺りを見渡す…。
すると彼のすぐ近くに白い花に映えるような紺色のオレンが転がっていた。

グマ「よかった、落ちた時に転がり出ただけか…。」

マッスグマは溜息に近い安堵の息を漏らし、
急いで回復しようと木の実に手を伸ば……………。

……クラッ。

グマ「おっと…。」

オレンを掴もうと手を伸ばす彼だったが、
ふいにふらっと視界が揺れ伸ばした手は空を切った。

グマ「あ…あれ?お…おかしい…な…?」

まるでめまいでも起きているように視覚が定まらず、
マッスグマの体がふらふらとしてしまうのである。
いきなりのおかしな状態に彼は困惑していた。

困惑したままもう一度オレンに手を伸ばすが、
まるで再びマヒにでもなったみたいに腕がうまく持ち上がらなかった。

グマ「…な…なんで…?」

原因が分からず混乱マッスグマだったが、
ふとあることに目を向ける。

グマ「あ……ああ…ああああ…!」

彼の口ががくがくと震え、
まるで恐ろしい物を見るように彼は彼が座り込んでいる『白い花畑』を見つめる。
先ほどから鼻先をくすぐるように甘い香りを放ち、
遠くにいる者から見れば今の彼の状況はとても和やかに見えただろう。

だが彼は知っていた、いや教えられていた…。
彼の座り込むその花のもつ力、そしてその花の名も…。

グマ「す…すいみん草…!」

まだ記憶に新しい彼の親友が教えてくれた花、
そしてその名にふさわしいねむりの力を秘めた花であるということも…。

グマ「あ…う…うあ…ああ……。」

気がついたときにはもう遅かった、
すでにマッスグマの周囲には甘いすいみん草の香りが立ち込め、
彼の意識が次第にぼんやりと薄らいでいく…。

急いでここから離れようと立ち上がろうとするが、
すぐにどさりとうつ伏せに倒れこんでしまう。
足ががくがくと震えてしまい、
体中にまったく力が入らなくなっていた。

パキッ…パキ…パキパキッ…!

グマ「う…あ……。」

マッスグマは倒れたままの状態でただ一点を見つめている。

見つめていた茂みががさがさと揺れ動き、
その奥に紫色の巨大な影のようなものが見え、
彼の目は恐怖に染まっていく。

グマ「うあ…うああああ……。」

恐怖かそれとも絶望か…、
知らずのうちに彼の目からぽろぽろと涙がこぼれていくが、
それでも彼の体はピクリとも動いてはくれなかった。

腕だけでも動かせればリュックの中の木の実が使える、
もしかしたらこの状況を変えてくれるものも入っていたかもしれない、
だがそんな僅かな望みさえ今の彼には許されないのである…。

やがてずるずると音を響かせて、
巨大なアーボが茂みの中から這い出てきた。
倒れ伏したマッスグマを見つけると、
彼は醜悪な笑みを顔中に浮かべぺろっと舌なめずりをした。

一歩進み出よとしたアーボだったが、
ふとマッスグマの周囲に白い花が咲き乱れているのに気がつく。

マッスグマはアーボもこのねむりにかからないかと淡い期待を持つが、
さすがにこの森に住み着敵はこの花のもつ力を熟知していた。
忌々しげに花の中にいるマッスグマを見つめるアーボだったが、
ふと何かを思いついたようににぃっと笑う。

アーボはぐいっとその長い尻尾をマッスグマに向けて伸ばし、
器用にすくい上げるように彼を持ち上げると、
そのまま巻きつける要領でするすると自分のもとへ引き寄せていった。

グマ「……。」

すでに虚ろに目を開けているだけで、
まるで人形のようにマッスグマはぼんやりとしている。
さきほどまで抵抗していたのが嘘のようにおとなしいマッスグマを、
もう逃がさないといわんばかりにアーボはその胴体でぐるぐると巻きつけていく。

巻きつかれていくごとにマッスグマの体がぎゅうっと締めあげられていき、
そのたびに微かに苦悶の声を漏らす。
勝敗は決してしまっていた、
すでにマッスグマには戦意も気力も残ってはいなかった…。

グマ「………もう。」

ぽつりと…、
小さくか細い声だったがマッスグマが口を開く。

グマ「……もう…いっそ…楽にしてくれよ…。」

彼の口から弱々しい声が漏れ、
完全に疲れきったような声からはすでに生気が感じられなかった…。
もう彼には助かる方法も、
生き延びるという気力さえ残っていなかったのかもしれない…。

野生の身であるアーボには言葉の内容は理解できなかったが、
ついに獲物が屈服したということは分かる。
彼は嬉しそうにに余っていた尻尾をぴくぴくと振る。

弱り切った獲物をさらに痛めつけるような趣味は彼にはない。

ただ生きたまま喉の奥へと飲み込み、
ぐったりした獲物が腹の中で静かに丸まって溶けていく瞬間こそが、
彼にとって至福の喜びの瞬間なのである。

歓喜の声と気持ちを抑え、
ぐったりと弱り切ったマッスグマを飲み込むべく、
アーボはその大きな顎を彼に向けてぐばぁっと開けるのだった。

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捕食者と被食者


急いで戻ろうとするマッスグマだったが、
ふいに「パキッ…ペキペキッ!」と木の枝が折れるような音を聞きつけ、
ぴたっと足を止める…。

グマ「…っ!」

彼の頬につぅーっと冷たい汗が流れる。

グマ「なにか…いる…?」

辺りを慎重にうかがいながらマッスグマは耳をそばだて、
ゆっくりとしゃがむようにかがみながらクンクンと周囲の匂いを嗅ぐ。
彼は視力よりもはるかに嗅覚や聴覚のほうが優れている種族なため、
こういった視界が悪い森の中では匂いや物音にたよって相手を探したほうが早かった。

グマ「…うっ。」

まゆを少しひそめながらマッスグマはわずかに体をぶるっと震わせる。

居場所はまだ分からなかったが、
彼の鼻にはある意味嗅ぎ慣れているねっとりと湿った唾液の臭いと、
生温かかくそして濃い獣の息の臭いを嗅ぎとったのである。

グマ「まさか、あのぬけがらの主か…?」

マッスグマはゴクッと生唾を飲み込むと、
警戒しつつゆっくりとその場を立ち去ろうとしゃがんだまま歩きだす。

旅をしていたころだってこうして何度か野生のポケモンに襲われそうになったことがある、
そんなとき一番とるべきなのはとにかく静かに逃げることだった。
へたに茂みをかき分けて逃げようものなら、
その音を頼りにどこまでもどこまでも追跡者は追ってきてしまうからである。

グマ「大丈夫だ…いつもどおり…いつもどおり逃げきれれば……。」

マッスグマは張り裂けそうな緊張感を無理に抑えつけ、
心の中で必死に自分自身をなだめる。
まるで砂漠にでもいるようにぽたぽたと汗の滴が垂れ落ちているが、
体の方は震えだしそうなぐらい冷たくなっていた。

それというのもマッスグマはこの相手が異質なものであるということを、
彼の場慣れした経験がひしひしと感じ取っていたからであった。

普通こうした狩人のような野生ポケモンや盗賊達は、
獲物が油断しているところを狙い襲いかかる、
いわば奇襲攻撃を当たり前のように行ってくるのが常である。

旅人や探険隊や救助隊、
様々な者たちが行き交うこうした人里離れた地において、
そういった襲撃者達との関わりもまた避けられないものなのである。

だからこそある程度経験を積んだもの、
ましてや一度襲われて痛い目をあったことのあるものなら、
襲われた時のための対抗策を用意しておくのもまた常なのである。

むしろ一人前になりたかったら、
一度は襲われてみろというのがマッスグマのような人里の外を歩く者たちにとって、
口伝のように伝わっていることであった。

奇襲攻撃というのは相手によってやり方は違っても、
とどのつまりは隙を突いてくる攻撃である。
だからこそこうしてその襲撃者の存在が獲物のほうにバレているということは、
隙を突く攻撃がなりたたなくなるため、
まったく意味の無い攻撃になってしまうのである。

普段の敵ならこうして存在が分かっているのなら、
彼だってその裏をかいて倒すなり逃げるなりしていただろう。

グマ「でもこいつは……。」

マッスグマは集中して敵の位置を探るが、
いまだ敵の居場所を見つけることが出来ないでいる。
そのくせその敵のどろっとした濃い気配だけは、
まるで彼を取り囲むように強く感じとれていた。、

そう、
奇襲をかけるんだったら襲撃者は可能な限りその存在や気配を獲物に感づかれないよう、
じっと静かに追い詰めてくるはずである。
でも今マッスグマを追い詰めてきているこの敵は、
自分の存在を微塵も消そうとはしていなかった。

だがそれでも漂ってくる気配は、
この相手が気配の消し方も知らない未熟者ではなく、
むしろ隙無く獲物を捕える熟練した狩人であることをマッスグマに伝えてきていた。

そんなことをするのは、
自分の力に絶対的な自信を持つような奴だけである。
そしてそういう考えをもった相手程、
実際に相手に回すと厄介なことになるのである。

タイプは違うが、
彼の親友もその例に漏れない奴なのでマッスグマはよく理解している。

ただ違うのは、
親友の場合だったら最悪死ぬ一歩手前では助けてくれるが、
この敵にそんな慈悲はまったく期待できないということであった。

グマ「くっ、どこだよ…!」

マッスグマは焦ったように声を漏らす。

極度の緊張感からか、
襲われてもいないのに彼の精神はかなり限界に近くなっていた。
そしてその緊張の緩みが彼に小さなミスを起こさせてしまう。

……パキッ!

グマ「………!」

彼の後退していた足が、
うっかりと木の枝を踏みつけてしまう。
小気味のいい乾いた音が静かな森の中に響き渡り、
一瞬彼の周囲の空気が止まったかのような静けさが広がる。

瞬間、
まるでその静けさを破砕するように枝が折れる音を響かせ、
紫色の巨大な巨体がマッスグマの頭上から勢いよく落下してきた。

グマ「え……うわぁぁあっ!?」

轟音を響かせて落ちてくるそれを、
マッスグマはすんでのところでかわしごろごろと転がる。

そいつが落ちてきた衝撃で落ち葉や木の破片が舞い、
もうもうと薄く土煙が凄まじい風圧で吹きあげられていた。

グマ「なっ…い…一体…!」

混乱も醒めきらぬまま、
マッスグマは立ち上がり土煙の中を見ようと眼を凝らす。
正確な形は分からないが、
明らかになにか巨大な生物がうねうねと中で動いているのが分かる…。

ゆっくりと風に乗って土煙が晴れていくと、
その蠢いていたものの姿がマッスグマにも見えるようになる…。

グマ「うあっ…!」

煙の晴れたその中にいたのは、
信じられないくらいに大きくそしてまるで大木のような太い胴体をもつ巨大な『アーボ』であった。
間違いなくあのぬけがらの主であろう。

グマ「あ…ぐっ…あ…!」

アーボの巨大すぎるその姿を見てマッスグマの体は痺れたように硬直する、
彼の本能が今すぐ逃げ出せと語りかけてくるのだが、
その巨体は見るものすべてに威圧感与えていた。

「しゅぅぅぅ………。」

アーボの黄色い目が刺すように小さなマッスグマを見据える。
最初の一撃で仕留められなかったのはいささか残念であったが、
彼にしてみればまだ狩りは始まったばかりである。
そんなにすぐに捕えられてもつまらない、
獲物はじっくりいたぶりながら捕まえるのが彼のささやかな楽しみであった。

アーボの体がぐぐっと後ろに引いたかと思うと、
まるでバネのように反動でその巨体がマッスグマに向かって飛びかかってくる。

グマ「はっ…うわぁ!?」

アーボの牙が刺さるか刺さらないかの所で、
意識の戻ったマッスグマは慌ててその【とっしん】を回避する。

ズガガガガガァァァ…………ン!!!

目標を見失ったアーボの体がそのまま木の幹に激突し、
巨木がいとも簡単に破砕されメキメキッという大きな音とともに倒れこんでくる。

グマ「うわ、あぶなっ……!」

倒れてくる木を何とかかわすマッスグマだったが、
素早く体勢を立て直し彼のほうを向いたアーボの口から、
大量の鋭い【どくばり】が嫌というほど発射される。

グマ「…っく!うわぁぁ!?」

あまりの怒涛の連続攻撃に、
さすがのマッスグマもたまらずその場から逃げるように飛び退る。
なんとか茂みの中を隠れるように移動しながら、
アーボから距離を取ろうと走るのだが…。

ドスッ!

グマ「うぐぅっ…!」

ふいに茂みを貫通するように横切った【どくばり】が、
マッスグマの膝に命中してしまった。

グマ「アグッ…あぐうう……。」

マッスグマは痛みに顔を歪めるが、
そんな彼にさえ容赦なく【どくばり】が襲いかかってくる。
とにかく彼は茂みの中から飛び出すと、
アーボから隠れるように木の陰に身を寄せた。

激痛に耐えながら急いで【どくばり】を抜いて捨てるが、
じんじんとした強い痛みと熱がマッスグマの足を浸食するように走る。

グマ「アグ……ど…どくか…っ。」

マッスグマは浅い呼吸をぜえぜえと繰り返しながら
クラクラする意識をなんとかとどめようと頭をぷるぷると振る。

グマ「とにかく…まずは落ち着かねえと…。」

彼はとにかく現状を整理しようと、
軽く深呼吸しながら心を落ち着かせようとする。

まず第一にこのアーボと戦うか、
それとも逃げるかをどうするかだが…。

もちろんここはおとなしく逃げたほうがいいだろう…。

レベルや能力の差が絶望的に開いているし、
それに何より遠距離攻撃が可能なアーボに対して、
自分にはそれに対抗できる技がほとんど無いのである。
悔しいが太刀打ちできるような相手ではなかった。

第二にどうやってこいつから逃げるかだが……。

マッスグマは慎重に周囲の状況を着実に整理していく、
旅をしていたころにだってこういった危険な状況下でのバトルは何度かしているし、
慣れることはないとはいえどく状態だって初めてのことではない。

そういった過去の経験は、
不思議と彼を落ち着かせていった。

グマ「…く、とにかくこのどくをなんとかしないと…。」

幸いアーボもこちらの様子をうかがっているのか、
さっきから攻撃の手が止んでいる。
距離をとるなら今がチャンスである…。

グマ「よし、この隙に逃げ……!」

マッスグマが走りだした瞬間、
彼の顔にぺとっとなにか生暖かいものがぶつかる…。

急なことで反応をとれないマッスグマの顔を、
その生暖かいものはまるでなぜるように彼の顔をぬるっと横切った。

グマ「うむっ…、なん………うぎゃああああっ!!」

一瞬何が起こったのか分からないマッスグマは、
一歩後ろに下がり何にぶつかったのかを見て悲鳴のような声を上げる。

そこには大木の枝を伝うように移動し、
ぶら下がるようにして彼のことを見つめたアーボがぺろっと舌舐めずりしていたのである。
彼がぶつかったのはアーボが何の気なしにちらつかせていた舌べろだったらしい。

グマ「な……うわあっ!」

慌てたマッスグマは後ずさるように一歩二歩と距離をとるが、
アーボはその様子をにやにやと意地悪い顔で眺めているだけだった。
時折マッスグマを舐めた舌を口の中に出し入れしている彼は、
一体彼の味をどう評価しているのだろうか…、
正直知りたくもなかった…。

グマ「く…くっそぉ…!」

とにかくマッスグマはアーボから十分距離をとったところで、
敵をいかくするように爪を構える。

これでアーボが逃げるとはとても思えないが、
構えた体勢ならまた急に飛びかかってこられたときにもすぐに反応はできるだろうと思ったのである。
だがアーボは彼が距離をとったのにもかかわらず、
そのままゆうゆうとぶらさがったまま彼のことをじぃっと眺めていた。

グマ「なんだ…何を狙ってるんだ…。」

さすがにアーボの様子に不審な物を覚えたのか、
マッスグマの表情も疑問を含んだものになる。

もしも彼がアーボの立場なら、
さっき彼がうかつにアーボにぶつかった時点でその体にかぶりつき、
そのまま飲み込んでしまっていただろう。

なんでアーボはずっとあの赤い目で見つめて………、
ん、赤い目…?
確かアーボの目は黄色かったはず……。

グマ「まさか…!?」

ふいにある可能性に気付きマッスグマは急いでその場から離れ……できなかった、
まるで足が石にでもなってしまったかのように、
ぴりぴりと痺れ動くことができなくなっていた。

グマ「やられた…、【へびにらみ】か…!」

見つめたものをマヒの支配下に置くへび型ポケモンの技【へびにらみ】、
気付かないうちにマッスグマもその技の影響下に置かれてしまっていたのである。

マッスグマがマヒになったのが分かったのか、
アーボは余裕の表情を浮かべするすると地面へ降りてくる。

どうやら最初からこれが狙いだったようだ…。

グマ「ぐっ……あっ…ぐぅぅぅっ…!」

マッスグマは必死に足に力を込めるが、
自由の利かなくなった足はびくともしない。
しかも回り続けるどくのせいで意識さえもふらふらとかすみ始めてきていた。

グマ「ぐっ…くっそぉ……どうすれば……。」

どくにマヒ、
どちらも獲物を弱らせるのにピッタリな状態の異常。
そのどちらも受けた彼が逃げ切るのが至難の技であることも、
彼の旅の経験が非情に告げていた…。

そうしている間にアーボはするりと地面にその巨体を降ろす。
そして弱り切った哀れな獲物をゆっくりしゃぶりつこうと、
その巨躯を静かにマッスグマのほうに近づかせるのだった……。

 

森とぬけがら


すぅすぅと寝息を立てていた彼は、
ふと何者かがこの森に踏み込んできたのに気が付き目を開く。

ふんふんと鼻を鳴らし風の匂いをかぐと、
森の中に…多分一匹、
とても旨そうな匂いをしたやつが入り込んできたようだった。

かぐわしい獲物の匂いに、
空腹だった彼のお腹がぐぅ~っと小さく鳴り、
ぽたぽたと寝床に涎の滴が垂れていく。

これは今日は満足な食事ができそうだとにんまり笑い、
彼は素早く寝床から抜け出すと哀れな獲物を探して森の中に消えていった…。


ガサガサと茂みをかき分けながら、
マッスグマは森の奥に向かってひょいひょいと進んでいた。
後ろにルギアが付いている様子はなく、
どうやら一匹で森の中に入ってきたようだった。

グマ「ふへぇ、やっぱりずいぶんと深い森だったんだなぁ…。」

マッスグマは額の汗をぬぐうと、
リュックの中から水筒を取り出し中身を少し口に含む。

グマ「ぷはっ……、さてともうちょっと進んでみるかな…。」

水筒を戻しながら呟くと、
彼はさらに森の奥へと一匹で進んでいく。

あの後ルギアとは少し別行動をすることになったのである、
いや正確にいえば一人取り残されたというべきなのか…?

なにせ、「少し食べ物でも探してくる。」と呟いたかと思うとあっという間に空高くへと飛びあがり、
空中からのんびりとした声で「あまりうろちょろ動き回るなよ。」と一言だけ言い、
ルギアはくるっと旋回しどこかへと飛び去って行ってしまったのだった。

反論する暇も文句を言う暇も一切与えず、
それは見事にその場から姿を消したルギアを、
マッスグマはぽかんと見つめていることしかできなかった。
…というかそれ以外の反応のしようが無い。

ほとんどのポケモンなら、
こんな理不尽な目に逢えば怒るなり悲しむなりするだろうが、
さすがにあのルギアに振り回されるのには慣れてきたのか、
マッスグマは大して取り乱しもせず、
ただ「……勝手な奴。」と一言だけ呟くのだった。

そんなわけで彼は事態を整理して少し落ち着くと、
残っていた木の実のいくつかを昼食変わりにリュックに詰め、
一人森の中に入ったのだった。

まあ一応ルギアに動き回るなとも言われたのだが…。

グマ「少しくらいなら…いいよな…。」

そんな好奇心に負けてしまったような感じで、
彼は最初の広場からずいぶん離れたところまで辺りを見回しながら歩いてきたのだった。

グマ「しっかし…、ずいぶん道具が落ちてる森だな…。」

森の中は不気味なほどに静まり返っており、
他の旅人らしきポケモンはおろか、
野生のポケモンさえ一匹も見かけることはなかった。

そのくせ地面には、
ふしぎだまやタネといった人里離れた土地特有の道具がごろごろ落ちているのだがら、
道具の収集が目的の探険隊なんかなら訪れるだけで大収穫であろう。

マッスグマもなんとなく足元に転がっていたふしぎだまを手に取ってみる、
今拾ったこのふしぎだまだって『かいしんのたま』という強い力を秘めており、
少なくとも町では滅多に仕入れられることのない珍しい道具だった。

しかしマッスグマはそのたまを軽く調べ終わると、
ぽいっと捨ててしまう。
まるで端から興味を持っていなさそうな様子だった。

グマ「さすがに一度も見たこと無いなんてやつは落ちてないか…。」

彼は少し残念そうな声で呟く。

マッスグマだって自慢ではないが、
これでも旅人としてそれなりの経験も場数も踏んできていた。
それだけ長く旅をしていれば、
少し珍しい程度の道具なら一度は手に取ったことも場合によっては使ったことさえあるのである。

特に彼の種族であるマッスグマは、
こうした人里離れたダンジョンと呼ばれるような場所で、
隠された道具を見つけてきたりすることに関しては天性のものをもっている種族である。
その為、
他のポケモンなら珍しい道具でも彼にとっては見慣れたものの方が多いのであった。

多少贅沢な悩みだが、
仕方がないと言えば仕方のない悩みである。

グマ「他になんか落ちてないかな………ぶっ!?」

地面をうかがいながら茂みをかき分け進んでいると、
突然壁のような物に正面からぶつかり、
痛そうに鼻の頭を押さえる。

グマ「いっつぅ~…、なんでこんなとこに壁が……。」

じんじんと痛む鼻をさすりながら、
何にぶつかったのかマッスグマは目線だけで前のほうを見る。

グマ「な…なんだこりゃ!?」

マッスグマは驚いたように声をあげると、
急いで立ち上がりがさがさと茂みの中から出る。

彼の目の前に現れたのは、
彼の背丈とほとんど同じ大きさをもつ紫色をした巨大な壁のようなものだった…!

グマ「な…なんなんだ…これ?」

不思議そうにしかし警戒しながら、
マッスグマはそっとその壁のような物に触れてみる。
表面はカサカサと渇ききりまるでミイラの様であった

グマ「いや…これはミイラっていうよりも……ぬけがら?」

目を凝らしてよく見て見れば、
大きな丸太のような形状をしているそれは、
てっぺんのところに横に一本裂けるように長いすじのようなヒビが入っている。

どうやらこれは、
信じられないくらい巨大な蛇のぬけがらのようだった。

グマ「こ…こんなでかい奴がいるっていうのか…この森…。」

抜け殻に残る模様やその形から考えるに、
おそらく『アーボ』とよばれる種族のポケモンの抜け殻の様であった。

ただそのサイズは明らかにマッスグマの知っているアーボの大きさを超えていた、
たしか彼よりも少し小さいかせいぜい同じくらいの大きさのポケモンだったはずである。

グマ「この大きさでぬけがらってことは……本体はどんだけでかいんだ…?」

そのあまりの巨大さにマッスグマはゴクリとつばを飲み込む。

このぬけがらの主がまだこの森にいるかどうかは分からないが、
出くわしてしまおうものなら彼一匹程度の力ではどうしようもないことは明白であった。

グマ「これは…早めに戻ったほうがよさそうだな…。」

物言わぬぬけがらを気味悪そうに見ながら、
マッスグマは元いた広場に戻ろうとくるりと向きを変えて歩き出そうとする。

コツッ…!

グマ「ん…?」

ふと一歩二歩と歩きださないうちに、
彼の爪先になにか石ころのような物を蹴っ飛ばした感触があった。
不思議に思った彼は、
何を蹴飛ばしたのかと足を止めてきょろきょろと周囲を見渡してみる。

すると、
そんなに離れていないところでなにか小さく光るものが落ちているのに気がついた。

グマ「なんだ…これ…?」

マッスグマは地面に落ちていたそれを手に取ると、
軽くぽんぽんと土を払ってそれが何なのか調べて見る。

それは救助隊の隊員ならだれもが持っていいる『きゅうじょバッジ』とよばれるものだった。
長い間放っておかれたのか彼の拾ったバッジは土と泥で汚れ、
救助隊のランクを表す石の部分も鈍く濁り色が分からなくなっていた。

グマ「なんでこんなとこにこんなものが……。ん、まだ何かある…?」

マッスグマがバッジを持ったまま立ち上がろうとすると、
草むらの中にまだ何か鞄のような物が落ちているようだった。

マッスグマは草むらをかきわけて中を調べてみる。

グマ「……これは。」

マッスグマの手の動きが止まり、
彼は軽く眉をひそめる。

草むらから出てきたのは風雨にさらされひどく汚れた救助隊様の『救助バッグ』と、
同じくぼろぼろに朽ち果てかけた手帳のようなものだった。

しかもおそらく彼の持っているバッジの持ち主のものであろうバッグは、
何があったのか強い力でひしゃげるように壊れ、
とても痛々しい状態だったのである。

グマ「こいつは、一体…。」

マッスグマはそぅっと手帳を手にとって、
中を読んでみようとする。
だがやはり長い間野ざらしにされていたせいもあり、
彼が手に取った瞬間に手帳はボロボロと無残に崩れ落ちてしまった。

グマ「うわ、こいつはひどいな…。」

バラバラになってしまったページを見つめながら、
マッスグマはもう一度唾を飲み込みぬけがらの方を見る。
静かに佇んだそのぬけがらを見ているだけで、
ここで何が行われたのか容易に想像できた…。

グマ「この荷物の持ち主たちは…こいつに……。」

彼はそう呟きながら、
背筋に何か冷たいものが走るのを感じぶるっと体を震わせる。

これだけの巨体の持ち主だ、
それこそこの森になる木の実程度でこの巨体を維持することはできないだろう。
もっと活きのいいものを食べていたなら話は別だが……。

グマ「どうやら…とんでもないものが住み着いている森みたいだな……。」

ぬけがらが彼に何かをするわけではないが、
それでもやはり見ていて気味が悪い。

それに急いでこの場から離れろと、
マッスグマの中の旅人としてそして生物としての生存本能が告げていた。
へたをすれば、
彼だってこの哀れな犠牲者たちの二の舞になりかねなかったのである。

グマ「ほんと…とんでもないとこに連れてきてくれたよなぁ…。」

そうぽつりと今はいない親友に悪態を呟くと、
彼はため息をつきながら元来た道へ駆け出して行った。


彼の嗅ぎとった旨そうな匂いの持ち主は、
どうやら彼のことに感づいたように辺りを警戒しながら移動し始めたようだった。

だが彼とて自分の『狩人』としての腕に自信を持っている、
それに獲物は彼の存在には気がついたものの、
まさかすでに追跡を開始しているとは夢にも思っていないようだった。

彼は寝床を出たときと同じにやっとした笑みを浮かべると、
あのこげ茶色をした生き物の味を想像し、
口の中を唾液であふれさせながら
するすると音もなく獲物の後を追い始めたのだった。

ノーマルとエスパー

ルギ「……であるからして、
   モモンにはどくを解く力があるしカゴにはねむりを治す力がある。
   ただカゴはかなり硬い実なので食用にするならモモンのほうがいいぞ。
   次に~…。」
グマ「ちょっ…ちょっと待ってくれ!!

あれからルギアは木の実を食べながらだが、
マッスグマに木の実の効力について説明をしていた。
やはり伝説のポケモンだけあって彼の説明はすらすらとよどみなく、
その内容も分かっている者から見ても間違った内容ではなかった。

ただし、肝心の生徒のほうにその説明が追い付いていないようだった。

グマ「え~っと…、クラボはマヒの治療だろ。
   オレンとオボンが傷の回復でキーが…やけど…?」
ルギ「キーはこんらん、やけどはチーゴだ。」
グマ「だ~--!!」

マッスグマは唸るように大きな声で叫び、
丸まるようにして頭をかかえている。

こんな状態の『勉強会』を1時間近くやってはいるのだが、
成果は恐らく中の下くらいであろう。

ルギ「どうした?まだたいした説明はしてないぞ?」
グマ「たいした説明じゃなくても量が多すぎるんだよ!」
ルギ「ほんの30個ぐらいだろ?」
グマ「多すぎるわ!!」

いつの間にそんだけの数の木の実の名前を言われていたのだろうか、
考え込みすぎて気がつかなかった…。

マッスグマはずきずきと痛む頭を抑えるために、
目の周りをぐにぐにと揉みほぐす。
記憶力には自信のある方だったが、
さすがにこの短時間で一気に覚えるのには無理があったようである。

ルギ「ふむ、さすがにいっぺんには無理か。」
グマ「ああいくらなんでもこの量は……。」
ルギ「安心しろ、私でもこの数を一度に覚えるなんて無理だ。」
グマ「……はっ?」

ふと思いがけない言葉を言われ、
マッスグマは間の抜けたような声を出す。

ルギ「聞こえなかったか?
   私だっていろいろ覚えるのに長い時間をかけながら苦労して覚えたのだ、
   こんな短時間で全部を覚えられるわけないだろう。」
グマ「な……なんだよそれ…。」
ルギ「まあお前が悩んでいる間にゆっくりと食事ができたから、
   私は満足なのだがな。」
グマ「………オイ。(怒)」

しれっと言うルギアをマッスグマはぎろっと睨みつけるが、
ある種の殺気を感じたルギアは素早い動作で森の方に首をぷいっと背けた。

グマ(こいつだんだん悪知恵をつけてきたな…。)

文句でも言ってやろうと思ったが、
勉強の疲れもありそんな元気も湧いてこなかった。

ルギアのほうも休憩する気なのか、
またいくつか木の実を見つくろうとマッスグマから少し離れて場所で、
しゃりしゃりと食べ始めた。

グマ「はぁぁ…、まったくもうちょっと考えて教えてくれよな…。」
ルギ「まあ多少は覚えたのだろう、結果オーライというやつだ。」
グマ「あのなぁ…。」
ルギ「それより早く食べないと、全部食べてしまうぞ。」
グマ「だから考えて食べろって……てかもうほとんど無いし…。」

マッスグマの言うとおり、
最初は彼の背と同じくらいどっさりと積まれていた木の実が、
いつのまにか程んど無くなっていた。

ルギ「お前が覚えるのに時間をかけすぎたからな、おかげで木の実だけで腹がいっぱいだ。」
グマ「うぐっ…。」

マッスグマが複雑な顔をしているのを横目に、
ルギアは再び2~3個木の実を【サイコキネシス】で引き寄せると、
さっきと同じようにしゃりしゃりと食べている。

グマ「まぁいいか…じゃあ俺もちょっと休むかな…。」

ずっと座りっぱなしで疲れたのか、
彼はぐーっと背筋を伸ばすと仰向けになって寝転がろうとした。

ふと急にルギアが翼をゆっくりとマッスグマのほうに向けたかと思うと、
その指先にぽぅっと青白い光がともりゆらぎは始める。
するとマッスグマの体の周りにもその光と同じオーラが包み込み、
横になる途中のアンバランスな格好で彼の体がぎしっと空中で停止した。

木の実を浮かせたりしたときにも使っていた、
【サイコキネシス】の光だった

グマ「う…うわっ!なにす…!」
ルギ「あぶないぞ。」

マッスグマの抗議の声が終わらないうちに、
ルギアはくるっと指を空中で回転させる。

グマ「うえ…っ、ふぎゃっ!?」

その動きに合わせてマッスグマの体が空中で一回転したかと思うと、
べちゃりという音とともにうつぶせに地面に落とされた。

マッスグマが地面に落ちたのを確認すると、
彼の体とルギアの指から青白い光が消えルギアはゆっくりと翼をおろした。

グマ「な…なにすんだよ…。」

うつぶせに倒れ、
ひくひくと痙攣したままマッスグマはうめき声をあげる。

ルギ「…そこにある花を見て見ろ。」

倒れたままの彼のそばを指さしながら、
ルギアは静かな声で言う。
その言葉につられるようにマッスグマがくいっと首だけを動かしてみて見ると、
彼が寝転がろうとしていた地面の近くに、
可愛らしい花弁をつけた花が小さくゆらゆらと揺れている。

グマ「なんだ…これ?」
ルギ「そいつは『すいみん草』という。」
グマ「すいみん…そう?」

聞きなれない名前に、マッスグマは起き上がりながら疑問の声を上げる。

ルギ「うむ、お前も『すいみんのタネ』は知っているだろう。
   あのタネが成長して花をつけたのが『すいみん草』だ。」

ルギアは手に持っていた残りの木の実を口に放り込み、
しゃりしゃりと咀嚼しながら説明を続ける。

ルギ「気をつけるのだぞ、そんなに小さくても花粉にはタネと同じねむりの力が込められているからな。
   一息吸い込めばたちまち眠りこけてしまうのだ。」
グマ「へぇー…。」

ルギアの説明を聞きながらマッスグマは感心したように彼のことを見つめる。

『すいみん草』の説明もあいかわらず見かけに反して分かりやすい説明をしていたのだが、
それよりも自分がそんな草の近くで気がつかず寝転がろうしていたのを、
さりげなく助けてくれていたことににちょっと驚いていたのである。
てっきり木の実を食べることしか考えていないとも思ったが、
ルギアなりに危険な目に合わないよう気を使っていてくれたらしい。

グマ「あ…あのさ…。」
ルギ「うむ、なんだ?」

マッスグマは顔を少し赤くしながらも、
一応助けてくれたことにお礼を言おうとする。

グマ「いや…ありがと……。」

ふと、彼の視界の隅に何か白くてくねくねと蠢く何かが草むらの中にいるのが見えた。
しかも、だんだん自分に近づいてきているようである。

グマ「ふんぬ!」
ルギ「むっ!」

マッスグマは自分の足元にその白い物体が近づいてくるのを狙い、
むぎゅっとそれを踏みつける。
案の状その白い物体はルギアの長い尻尾であった。

ルギ「うむ、おしかった…。」
グマ「おしかったじゃねえ!何する気だったんだよお前!!」
ルギ「いや、木の実ばかりで口の中が甘ったるくなってしまったのでな。
   口直しにお前でも放り込んでおこうかと思ったのだが。」
グマ「口直しに食われてたまるか!!」

まったくお礼を言おうとした瞬間にこれである、
あいかわらずこのルギアが何を考えてるのかが分からなかった…。

ルギ「むぅ…仕方ないな。……………隙あり!」
グマ「へ……うわぁあ!うむぅ!!」

がぷっ!!

一瞬あきらめるようなそぶりを見せておいて、
ルギアはフェイントのように素早く首を伸ばしマッスグマの上半身にかみつく。
尻尾を押さえていてすっかり油断していたマッスグマは、
避ける暇もなくルギアの口に取り押さえられてしまう。

むにゅ……ずりゅ……じゅるじゅる……!

マッスグマの体がルギアのぷにっとしたピンク色の舌ベロに抑えつけられ、
お腹や顔を余すことなく舐めあげられる。

グマ「うえっぷ…!や…やめろ…うむぅむぐぅうう……!!」
ルギ「まあそういうなもう少しだけ…。」
グマ「もう少しじゃな……うあぁぁ…!!」

ルギアの顎に挟まれながらもじたばたと暴れるマッスグマだったが、
ルギアはそのまま首を上に傾けると彼の体が重力に従ってずりゅずりゅと口の中に収められていく。

マッスグマという肉の味に、
ルギアもおもわずむしゃぶるように彼の体をむぐむぐと味わっていく。
若干最初に出会ったころよりも、
運動不足のせいかお腹の部分がぽってりと軟らかくなっていて、
その部分が特に味が出ていて美味しかった。

すっかり彼の体を口の中に取り込み、
れろれろと味を楽しむように舌を動かす。
マッスグマの体にぬるぬるとした舌が彼の顔に覆いかぶさるたびに、
口の中から苦しそうにあえぐ声が漏れてくる。

グマ「ひゃうっ……、や……やめ…ろ…よ…。」

しばらく舐めていた後に、
今度は味を堪能するようにルギアはくにくにと優しくマッスグマの体を甘噛みをする。
ルギアの白い牙が押さえつけるようにマッスグマの背中を押しつぶし、
痛みこそないものの口の中の彼が小さく悲鳴をあげる。

くに…くにくに…ぐにゅぐにゅ…!

牙の動きが止んだと思ったら、
再びぬるっとした太い舌がにゅる~とマッスグマの腹の前まで伸びてきて、
さらにマッスグマの体を思う存分舐めまわし始めた。

じゅるる、じゅる……れろん…れろれろ…。

ルギ「うむ、お前は相変わらず美味しい味をしているな♪
   まあいい、そろそろ出してやる。」

しばらくの間マッスグマの味を楽しんでいたルギアだが、
ある程度満足するとじゅるりとたまった唾液を呑み込み、
口の中で暴れていたマッスグマをぺっと吐き出す。

できることなら一度胃袋にも収めたいくらいだったが、
さすがにそこまでやったら後で延々と文句を言われるのは間違いないだろう…。
名残惜しさを感じながらも大量の唾液に包まれたマッスグマの体が、
べしゃっと音を立てながら草むらの中に落ちた。

グマ「うぶっ……!」

口の端に垂れる唾液を舐めとりながら、
ルギアは後味の余韻を楽しむように口の中を舌で舐めとっている。

ルギ「ふぅ、うまかったぞ。飲み込めなかったのが残念だな。」
グマ「お前なぁ……。」

べっとりとまとわりつく唾液で汚れながら、
マッスグマは恨めしそうにルギアを見上げる。
本当に…、
本当に心の底からこいつが何考えているのかマッスグマには分からなかった。

何も考えていないように見えながら全てを見透かしたように動いたり、
逆に読んでいたかのような対応をしながら実はただの偶然だったり…。
やることなすこと全てがマッスグマには到底理解できそうに無かった…。

グマ「ほんと変なやつ……。」
ルギ「む、何か言ったか…?」
グマ「いや、別に……。」

こうしてマッスグマは唾液まみれになりながらも、
しばらく寝そべったままぐったりと疲れ切っていたのだった。

空腹と木の実

葉っぱのざわめく音だけが鳴り響く深い深い森の奥、
あたり一面見渡す限り濃い緑色に包まれ、
森に他の色が溶け込み消えていっれいるかのような見事な森林だった。


そんな森の中から、
むすっとした表情のマッスグマが両手にたくさんの木の実や植物をもって、
木々がまばらに開けた広場のような場所に歩いてきた。

その開けた場所には柔らかく揺れる草が生え茂り、
中央には小さな木の実の山が下に敷かれたカゴから盛り上がるように積み重ねられていた。

グマ「あ~、疲れた……。」

木の実の小山まで歩いてくると、
マッスグマは疲れた様子でぽふっと草むらに座り込む。
彼の手からひとつ木の実がぽろりと地面にこぼれ落ち、
ゆっくりと木の実の山に転がった。

グマ「よいしょっと…。」

彼は手に持っていた木の実をどさどさと小山の上に積み重ねると、
ぐ~っと背筋を伸ばして草の上に横になる。
足もずいぶんとくたびれていたため、
じんじんと熱をもった足にはとても心地よかった。

グマ「ふへ~…、やっと休めるよ…。」

疲れた様子でもう一度ぐっと腕を伸ばすと、
爪先にこつんと何かが当たる。
んっと首だけ後ろを向けて見てみると、
小さな革製のリュックがちょこんと木の幹にもたれるように置いてあった。

マッスグマは腕を伸ばしてリュックの革ひもをつかむ。
そしてずるずると自分の手元に引き寄せると、
中から小さい木の水筒を取り出して美味しそうに中の水を飲む。
汲んでからずいぶん時間がたっているはずだったが、
汲んできたときとまるで変わらない冷たく澄んだ水だった。

グマ「っぷはぁ、生き返るなぁ~!」

マッスグマは満足するまで水を飲むと、
冷たく濡れた口元をぬぐいながら、
きゅっと水筒の口を締める。

旅先で飲み水を失うのは命の危険にもつながるため、
一人で旅をしていた以前なら慎重に少しづつ飲んでいたものだが、
今回はその心配はないので安心してぐびぐびと飲んでいた。

グマ「……それにしてもあいつ、どこまで採りに行ったんだ…?」

水筒をリュックの中にしまいながら、
マッスグマはふと自分をこの森につれてきた張本人の姿を探す。
この広場には自分と、
あとは木の実の山とこのリュック以外見当たるものはない。
どうやらまだあの『迷惑な親友』は戻っていないらしい。

そもそもこのリュックだってあいつが出した……いや、
正確にいえばあいつの腹の中から出てきた代物なのである。

マッスグマはリュックをひっくり返して裏のほうを見る、
そこには小さくカミナリのマークをかたどった刺しゅうが縫い付けられていた。

彼にはなんとなくだがこのリュックの持ち主には見当が付いている、
恐らく彼をここに連れてきて、
なおかつ現在森の中で木の実を漁っているのであろう親友ことルギアが、
先日腹の中にしまいこんで帰ってきた時のサンダースのものであろう。

本当は返してやったほうがよかったと思うのだが、
あの時はマッスグマ自身もルギアに呑まれ、
訳のわからないうちに吐き出されていたから、
まさかサンダースの手荷物がまだ胃の中に残っていたとは思いもよらなかったのである。

このリュックを吐き出した時にはとっくにあのポケモンも逃げ出した後だったので、
結局マッスグマが預かっているのだ。
しかし四足ポケモン用の小さなものとはいえ、
同じように全荷物を無くしていたマッスグマにとっても便利なものであったので、
こっそりと使わせてもらっているのである。

グマ「しかしあのサンダース…、こんな大切なもの捨てて逃げ出して大丈夫か…?」

マッスグマだって(一応やめたつもりはないが)旅人である、
それゆえこういった旅用の鞄やリュックの重要性は痛いほど分かっているつもりだった。
町で買った食料や飲み水を入れておくにも、
旅先で拾った木の実やお宝かもしれない道具も、
つまるところ入れるものがなければ持ち運ぶことすらできないのである。

とくにこのサンダースの落としていったリュックなんか、
開けた時に地図や水筒やコンパスといった旅の必需品がこれでもかというくらいに詰め込まれていたのである。
(食料もきっと入ってただろうけどたぶん胃液で溶けたのだろう。)
リュックにこんだけ入ってたということは、
あのサンダース本人は丸腰だった可能性が高いのである。
そんな状態で決して狭いとはいいにくいあの森を抜けるのは……。

そこまで考えてマッスグマは意図的に考えていたことを忘れることにした、
まあ彼らが住んでいる森は救助隊がぎりぎり出動できる範囲にある森だし、
なんとかなっただろう…と思うことにしておいた。


それよりも問題のなのはあの事件以来、
ルギアが自分への態度を以前とは少し変えたことである、
それも良くない方向に……。

以前から悪ふざけでいきなり舐めてきたりするぐらいのことはあったが、
あの一件以来味でも占められたのか隙あればかぷっとくわえてくるくらい平気でするようになってきたのである。

本人いわくただの冗談らしいのだが、
この前の夜なんかこっちが寝ているときにいきなりべちゃっと液体を落とされ、
月明かりを背後に舌なめずりしていたのだから正直まったく説得力がない。
むしろ普通に怖い。

グマ「はぁ、早くあいつ戻ってこないかなぁ…。
   あいつがいなきゃここに来た意味がないんだもんな…。」

マッスグマは退屈したように大きなあくびをひとつする、
周囲に何にもないし待っているだけでは退屈なのであった。

そもそも普段住んでいる森からずいぶんと離れたこんな場所まで連れてこられたのも、
もとはといえばあのルギアのせいであるった。

いや、今回は多少はマッスグマ自身の願いでもあるのだが……。

それは今朝のこと、
マッスグマがルギアに木の実や道具のことについて教えを請いてみたのだった。

普段はとぼけたようにしているルギアだが、
さすがに伝説と呼ばれる存在だけあってか、
木の実の効力や見たこともない道具に関しての知識はマッスグマも目を見張るものがあった。

この前のサンダースの時しかり、
この世界にある木の実や道具には多少経験を積んだ程度の旅人であるマッスグマでも、
知らない力が秘められているのである。

さっきの水筒だってただの木の水筒だったのが、
ルギアに言われてたしか…『とけないこおり』という不思議な道具を入れただけで、
いつまでも水が冷たいままの便利な水筒に早変わりしたのであった。

純粋にそういった道具の不思議な力に知らないうちに引かれて、
ものはためしにとルギアに聞いてみたのだが…。

ルギ「ふむいいぞ、それならばいいところを知っている。」

と承諾の言葉を言われた時には、
思わずちょっと尻尾を振るぐらい喜んでしまった。

ただしその言葉と共に、
次の瞬間にはマッスグマの胴体の部分をぱくっとあの大きな顎でくわえられ、
そのまま一気に上空まで飛びたてられたのである。
別の意味でぎゃーぎゃーと尻尾を振りながら、
なかば連れ去られるようにしてやってきたのがこの未開の密林とも言えるような森だったのである。

たしかに彼らが普段住んでいる森ではあまり見ない木の実も大量に生えているし、
物珍しい植物も大量に生えてはいるのだが…。

珍しすぎて逆にどんな効果があるのか全く分からなかった。

ルギ「では何か食べられる木の実……、
   いや教えるのにちょうどいい木の実でも探しに行くか。」

と垂れた唾液を隠さないままあいつに言われ、
言われるがままに二手に分かれてそれぞれ『勉強材料』になりそうなものを探してくることになったのだった。

マッスグマはとりあえずあまり見かけない木の実や詳しい効果を知らない木の実なんかを拾ってきていた、
というより『先生』が木の実以外に興味なさそうだし、
ご機嫌取りも兼ねて持ってきたのだった。

みためからして毒々しい実なんかもあったが、
持ってきてよかったのだろうか…?

ひゅーーーーー……ん…………ゴンッ!

グマ「ふぎゃっ!?」

そこまでつらつらと考え事をしていたマッスグマの顔に、
突然何か固いものが勢いよく落ちてきた。
じんじんと痛む鼻を押さえながら、
マッスグマは目に涙を浮かべて起き上がる。

グマ「いっっっつぅ~………。」
ルギ「何をそんなところで寝そべっているのだ?」

マッスグマが鼻を押さえていると、
上空から聞きなれた声が巨大な羽ばたく音と共に聞こえてきた。
マッスグマが空を見上げると白い巨体のルギアが、
ホバリングするように羽ばたいていた。

彼の周囲には青白い光に包まれたいくつもの木の実がふわふわと浮いている、
恐らくルギア自信の念力で浮かせているのだろう。
マッスグマは目に涙を浮かべながらルギアをにらみつける。

グマ「な…なにすんだよ…。」
ルギ「すまぬな、木の実を一つ落としてしまったのだ。
   ところで落ちた木の実は無事か?」

ルギアはきょろきょろと首を回して落ちた木の実を探している、
彼の言う落ちてきたらしきオレンの実がころころとマッスグマのそばに転がっていた。

グマ「あのなぁ、木の実よりぶつかった俺のほうを心配しろよ…。」
ルギ「木の実がぶつかった程度では死にはしないだろ?」
グマ「そりゃそうだけどなぁ…!」
ルギ「そんなことより、今から降りるから早くどかないと踏みつけてしまうぞ。」

そう言いながらルギアはばさばさと翼を羽ばたかせ、
落ち葉や雑草の切れ端を巻き上げながら、
マッスグマのいる広場の中にゆっくりと足を地に降ろした。

グマ「え…うわぁっ!?」

まるで突風のようなルギアの羽ばたく風圧にマッスグマの体が吹き飛ばされそうになる。
必死に踏ん張って耐えようとするが、
健闘空しくあっさりと転がるように吹き飛ばされ木の実の山に突っ込んでてしまった。

そんなマッスグマを知ってか知らずか、
ルギアはぽんぽんと体にについた草を払っていた。

ルギ「ふう、無事に降りれたようだな…。」
グマ「俺が無事じゃねえよ…。」
ルギ「む…?見たところケガはしていない、大丈夫だ。」
グマ「ケガしなきゃいいのかよ!?」

木の実の山の中から這い出てきたマッスグマを軽くいなしながら、
ルギアは自分の翼を胸の前で組む。
すると同時に念力で宙に浮かせていた木の実が、
吸い込まれるようにすっぽりと彼の翼の中におさめられていった。

その内のいくつかはルギアの口元にふよふよと近づいていき、
彼は大きく口を開けると美味しそうにぱくつく。

ルギ「ふむ、なかなかいい感じに熟しているぞ。」

むしゃむしゃと木の実を咀嚼しながら、
ルギアはちらっとまだうつぶせのままのマッスグマのほうを見る。

ルギ「なにをしているのだ?
   別にお前も食べたかったら食べてもいいのだぞ?」
グマ「………。」

くいっと翼で木の実の山を指さしながら、
ルギアはまたひょいと木の実を一つつまみ口の中に放り投げた。
そんな光景を吹き飛ばされた時の恰好のまま地面に突っ伏しながら、
恨めしそうな目でマッスグマは見つめている。

ルギアの持ってきた木の実のほうにも目を向けるが、
案の定というか予想通りというか、
ルギアの持ってきた木の実はマッスグマでも知っているような食用の物ばかりであった。
本当に教えるつもりでここに連れてきたのか少し不安になる…。

きゅるるる……

グマ「………はぁ。」

ルギアに対して色々と言いたいことはあったものの、
声を荒げるだけ無駄なことは経験上分かっていた。

それに彼も朝から何も食べずに歩きまわっていたので、
正直お腹もすいていたのである。

マッスグマは疲れたように小さくため息をつくだけにとどめておくのだった。

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更新日 2014年  1月17日
  少ないけどとりあえず新規イラストに変更
  一枚オリキャライラストなので苦手な方注意

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