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微妙な空気…

洞窟の奥から吹いてくる冷たい風を顔に感じながら、
ワルビルは洞窟の床にあぐらをかいて座りこんでいた。
表情はぶすっと不機嫌そうに口を結び、
なぜか赤く腫れた頬を痛そうにさすっている…。

その隣にはリングマがぼーっとした様子で座り込み、
足元に小さな携帯用の松明を石で固定して立たせ、
たいまつの先端でオレンジ色の炎を揺らめかせて周囲の岩肌を照らしていた。

一見すると探索中の休憩に見える光景だったが、
二匹の表情はどこか暗く、重苦しい空気がその場に漂っていた。

「いてて…、お前本気で叩きすぎだろ、まだ痛みがひかないぞ…。
「………。」
「おーい……。
 その…悪かったよ、状況も…あと空気も悪くさせちまって…。」

沈黙に耐えられなかったのか、
ワルビルは空気を変えようと腫れた頬をさすりながらリングマに話しかけるが、
返ってくる無言に再びうつむくように頭を垂れ再び黙り込んでしまう。
こんな調子がずっと続いていたのだった…。



ゴウカザルとはぐれてからずいぶんと時間がたった…。
二匹で手分けして近くを探してみたものの彼の姿は無く、
どんなに大きな声で呼びかけても誰の返事も返ってこなかった。

本当はこうして休憩などしている場合ではないのだが、
疲労もたまってくるなかでそれでも探しに行こうと主張したワルビルを、
リングマが休んだ方がいいと強く止めたのである。

「……冷静にならなきゃ、見つかるものも見つからない。」

ひょっとすれば休んでいる間にゴウカザルが戻ってくるかもしれないし、
こっちまで倒れてしまったら元も子もないと、
入口からはそんなに離れていないこの場所で休憩しようと提案したのである。

「うっせい、休みたきゃそこで休んでてくれよ!」
「……ワルビルの方が疲れてる。」
「俺は平気だっての!
 いいから残ってろ、その間にちょっと見てくっかr…!?」

”バキィッ”と小気味のいい音が響き渡る。
制止の声を振り切って探しに行こうとしたワルビルを、
リングマは腕をつかんで背負い投げの様にして地面にたたきつけたのである。

肺の中の空気がゴボッと押し出され、
クラクラと世界が渦を巻くように回っていた。
そんな彼の頭上から「悪い」とリングマの声が耳に入ってくると、
頬に強い衝撃が走り、そのまま気を失ってしまったのである。


そんな安静とは程遠いといえる休息から彼が目を覚ましたのは、
ゴウカザルが居なくなってから二時間が経過した頃だった。

ヒリヒリと痛む頬をさすりながら、
ワルビルはちらっとリングマの方を横目で見る。
今のリングマは普段の彼と同じように、
しれっとした顔つきでまるで何事も無かったかのように落ち着いて座っていた。

「あいかわらず…何考えてるか分かんねえ奴だなぁ…。」

そうぼそりと呟くように囁いてみるが、リングマは眉一つ動かさない。
そんな会話の空回りを起きてからしばらくしていたが、
木か壁に話しかけているようなむなしさしか残らず、
ワルビルはもう何度目か分からないため息をついた。

そういえばリングマと二人っきりになるというのは、
今までにはあまりなかったことである。

というか、
ワルビルの記憶にはリングマが誰かと二人でいるという光景自体、
ほとんど見たことがなかった。
毎日の大抵はワルビルとゴウカザルとリングマでの三匹、
もしくは彼とゴウカザルの二匹でいることが多い。
彼とゴウカザルと二匹で口論してる時も、
依頼の内容や作戦を立てている時なんかも、
リングマはそばでその様子を傍観しているということのが多いのである。

誰かと二人で話をしているどころか、
誰かと二人で行動していること自体あまり見たことのない。
どちらかというと一匹でいるのが好きなのかなと、
そう思わざるを得ないのが彼らの仲間のリングマの性格だった。
もっとも例え二匹でいるところがあったとしても、
基本的に無口で考えを表に出すことが少ない奴であるから、
今のワルビル同様、お互い黙りこくるしかなさそうである。

といっても、
別に考えが分からないからと言って悪い奴というわけではない。
無口なだけでその気になれば普通に話もできるし、
ぶっきらぼうだけど頼りになる奴というのが、
ワルビルの中でのリングマの評価だった。

「はぁぁっ……、なあ、そろそろもう一度捜しに出てみないか?」

ワルビルはぽつりとそう漏らすように呟きながら、
リングマに返答を求める。
リングマに止めてもらい、たっぷり休んで頭も冷えてきたが、
それでもあのゴウカザルがこんなにも長く連絡をよこさないというのは、
どうしても気になるところだった。

普段のあいつなら例えチームが分断されようとも、
30分もあれば合流なり連絡なりしてくるはずである。
だからこそゴウカザルからの連絡がまったくないことに、
再びワルビルは焦りを見せ始めていた。

たいまつの炎がはぜる音だけが響く洞窟の中で、
ワルビルはぽつりぽつりとリングマに話しかけた。

「もうはぐれちまってからだいぶたつし…、
 あいつが連絡の一つもよこさないなんて変だと思わねえか…?」
「………。」
「もしもワープしたはずみで怪我とかしてるんなら、
 動きたくても動けねえかもしれないだろ…。
 それに…あいつとはぐれちまったのは…。」
「………。」
「だから…その…、俺のせいでて思っちまうと……。
 だーっ、もう!
 笑うなりなんなり反応しろよ…な…!?」

ワルビルが声を荒げて言ってもリングマからの反応が返ってこず、
彼はバッと立ち上がってリングマの方を睨むように見る。
…それでもリングマはピクリとも反応しない、というより…。

「………。」
「…おい。」
「………ZZZ。」

思わずガクッと崩れそうになる体を冷静に支え、プルプルと拳を震わせた。
反応がないから考えことでもしてるんじゃないかと思っていたが、
ただ単に寝ていただけのようである、しかも目を開けたまま…。

彼は震える拳をそのまま頭上に振り上げると、
ポカッとリングマの頭をはたいた。
先ほど彼がやられたようなパンチではなくある程度加減した拳だったが、
それでもその衝撃でリングマも目を覚ましたらしい。

「……痛い。」
「痛いじゃねえよ痛いじゃ!
 あ~ったく、本当に何考えてんのか分かんねえなお前!」

寝ぼけ眼でぽりぽりと頭をかいているリングマに、
ワルビルはプンプンと怒りながら声を上げる。
人が柄にもなく落ち込んで弱音すら吐いていたというのに、
隣でグースカと寝られていたとあっては、
話しかけてた自分がバカみたいであった。

「お前はあいつのこと心配じゃねえのかよ!」
「……心配に決まっている、もうずいぶんと連絡も無い。」
「本当にしてんのかよ…。
 心配してるやつがのんきに居眠りなんかできるかぁ?」
「……心配もしているが、大丈夫だと信じてもいる。」

不審そうに睨みながら話すワルビルに対して、
リングマはいつもと変わらない無表情で彼に話しかけてくる。
そんな無関心にも見えるリングマの態度にカチンときて、
ワルビルは乱暴に立ち上がると、
踏み荒らすようにずんずんと洞窟の奥の方へと歩き出そうとする。

「……どこへ行く?」
「もういい、お前はここにいろよ! 俺一人で探してくる!」

当たり散らすようにがーっと吠えて洞窟の奥の方を向くと、
その後ろから相変わらず抑揚のないリングマの声が響いてきた。

「……自分を責めるな、お前だけのせいじゃない。」
「べ…べ別に責めてなんかねえよ!
 俺はこれでも冷静だし、ただ単にあいつが怪我でもしてねえかと心配で…!」
「……冷静ならたいまつも持たずに行こうとはしない。」
「………!」

その指摘にドキッと自分の手元と洞窟の暗闇を見比べると、
ばつが悪そうにリングマの方へと振り返る。
彼はまだ座ったまままっすぐな目でワルビルの方を見つめ、
どっしりと構えるように腕を胸の前で組んでいた。

リングマは「ふぅ…」と軽く息を吐くと、
地面に刺していたたいまつを手に取りワルビルの方へと歩みよってくる。

「……ゴウカザルも心配、でもワルビルのことも心配だ。」
「別に……俺は心配されることなんか何も…。」
「……まいっていることぐらい仲間だから分かる。
 それもゴウカザルのことだけじゃない、この洞窟に入ってからずっとだ。」
「………。」

静かに話しかけてくるリングマの言葉に、
ワルビルはうっと怯んだように顔をそむける。

リングマの言っていることは図星だった。
自分のミスでゴウカザルを危険な目にあわせていること、
そしてその尻拭いにリングマを突き合わせていることが、
胸の奥をきゅうきゅうと締めあげているようであった。
そしてこの洞窟に入ってからずっと付きまとっている閉塞感、
それらすべてがワルビルの心をピリピリと疲弊させているようであった。

今まで楽天的で物忘れが激しく、
どちらかというと鈍感な性格だと思っていたが、
こんなにも繊細だったとは我ながら驚きである。

「……俺だってあの時何もできなかった、お互い様だ。」
「でも…むぐっ!?」
「……だから二人でゴウカザルを助ける、それが仲間だ。」
「むむむ……わひゃったから口をふかむなって…!!」

ぶはぁっとリングマが掴んでいた口を引きはがしぜぇぜぇと息を整えると、
ワルビルは照れくさそうに頭をかきながら笑みを浮かべる。
一人で勝手にイライラと焦っていたことに気が付き、
恥ずかしかったのである。

深く息を吸ってから「ぶはぁっ」と吐き出すと、
ワルビルはにっと笑いリングマに小さく「ありがとう」と呟く。
リングマの方も安心したように鼻を鳴らした。

「うっし、もう大丈夫だ。 早いとこゴウカザルの奴を探そうぜ!」
「……おう。」
「…ってもどこを探すべきかなぁ、
 この洞窟ゴウカザルどころか他のポケモンもいやしねえし…むぐっ!?」

腕を組んでつらつらとしゃべっていると、
再びリングマが彼の口をガシッと掴んで声をさえぎる。
何事かとリングマの方を見ると、しーっと指を口に当てていた。
「……何か聞こえる。」とリングマの囁くようなその声に、
ワルビルも暴れるのをやめてそっと耳を澄ます…。

静かに聞き耳を立てると確かに洞窟の奥の方から、
『ヒタヒタ…ヒタヒタ…』と何かの足音の様なものが聞こえてきた…。

野生のポケモンかもしれないと考え、
すぅっと臨戦態勢を二匹はとり洞窟の奥の方を睨みつける。
すると……。

「おーい、そっちに誰かいるのかー!」
「…この声!」

洞窟の奥から聞こえてくるその声にワルビルはピクっと尻尾を揺らす。
野生ポケモンの威嚇や唸るときのとは違う、しっかりとした理性ある声。
それだけでなく何度も聞き覚えのあるその声は、
間違いなく彼らの仲間のゴウカザルの声であった。

「おーいゴウカザル、こっちだー!!」
「その声…よかった、探したんだぞ。」

ワルビルが大きな声で呼びかけると足音が一瞬ぴたっと止まり、
そして再び音がし出すと徐々にこちらの方へと近づいてくる気配がした。
やがてワルビルの視界にもはっきりと分かるように、
ゴウカザルの姿が暗がりからこちらへと歩いてくるのが見えた。

足に怪我でもさせたのか、
ひょこひょこと体を揺らしながら歩いてきているが、
こちらを見つけて安心でもしたのか軽い笑みを見せ、
無事だと知らせるように手を振って合図をしている。

「おお~、良かったぁ…。
 本当に無事でよかったぜ、な、リング……どうした?」
「………。」
「変な奴だな…、まあいいや。
 ほれ、怪我してるみてえだし早く行ってやろうぜ!」

嬉しそうに笑みを見せながら走っていくワルビルに対し、
リングマはいぶかしげな眼でゴウカザルを見つめていた。
ようやく仲間が見つかったというのに、
嬉しそうなそぶりはほとんどなく、
何かを考えながら睨みつけているようにも見える…。

「…たく、大丈夫かよお前。
 怪我までしやがって…てか俺のせいか…本当にごめん!」
「いいさ気にするな、
 お前が原因の失敗談なら今に始まったことじゃないしな。」
「このやろ~…!」

いつもどおりに会話する二匹を、
リングマはいつも通り距離をとって黙って見つめている。
ゴウカザルが見つかってとても嬉しいはずのなのだが、
なにか腑に落ちないのである…。

確かに姿も形もそれにしぐさや声もゴウカザルそのものだ、
でもなぜだろう…、
なぜだかあのゴウカザルには違和感を感じてしまうのである…。
何かが違うはずなのに、
その違いが大きすぎて気づけないような何かが…。
リングマがうつむいて思考していたその時だった。

「とにかく俺の肩につかまれよ、
 その足じゃ歩くの大変だろ…ってのわぁ!」
「うおっと!?」

黙って考え事をしていたリングマの耳に、
”べしゃっ”と痛そうな転倒音が聞こえる。
顔をあげて二匹の方を見てみると、
どうやらワルビルが肩を貸そうとして足を滑らせてしまったらしい。

「いてて」と二匹で痛そうに体に着いた石粒を払い落しながら、
ゴウカザルはワルビルの鼻をぎゅっと強くつまんでいた。

「あのなぁ…助けてくれるのは本当に感謝したいところなんだがな、
 もうちょっと気をつけてやってくれ!」
「いででで…、悪かったって!
 足元暗くなっててよく見えなかったんだってば…!!」
「……! 離れろワルビル、そいつから離れるんだ!!」

悪びれるように手を合わせていたワルビルの耳に、
リングマの怒号の様な声が響き渡る。
驚いてリングマの方を見ると、
ぐっと腕を前に出して構え、今にも飛びかからんと戦闘態勢をとっている…。

「な…なんだよ脅かすなって!
 ってかどうしたんだ、野生のポケモンでも出たのか?」
「……野生かどうかは知らない、
 だけどそいつ…ゴウカザルじゃない!」
「…へ。」

リングマの真剣な口調に、
ワルビルはそっと後ろに立っているゴウカザルの顔を見る。

普通ならリングマの行動に驚くか怒ってもいいはずなのに、
さっきまで普通に話していたのが嘘みたいに無表情で、
口を真一文字に結んでリングマの方を見ている。

「な…何言ってんだよリングマ…!
 だって…どう見たってゴウカザル…。」
「……うん、俺も見た目じゃ絶対に分からなかった。
 声も…姿も…しぐさだってゴウカザルそのものだと思う…だけど…。」

リングマの言葉にワルビルもじとっと嫌な汗が噴き出てくるのを感じる、
たいまつの明かりがゆらゆらと揺れて、
リングマの影が大きく揺らめいているのが余計に圧迫感を引き立てていて……。

そこでワルビルも違和感に感づいた
そう、足を滑らせた時に気づくべきだった。

『足元が暗くって足を滑らせた』だって…?
暗いわけないじゃないか、だって…だって彼のすぐそばには……。

「…この暗闇で、炎の光がまったく灯らないゴウカザルなんてありえない…!」
「ああ、ばれちゃったか…!」
「………!!」

リングマの言葉がいい終わるのと同時に、
ワルビルの背後にいたゴウカザルが口を開いた。
ワルビルがつばを飲み込み、
自分でも不思議なくらいゆっくりとした動作で後ろを振り向く。

『ゴウカザル』はそこにいた。
にぃぃっと邪悪な笑みを浮かべた顔と、
大きく炎を燃え盛らせた【ほのおのパンチ】をかまえて……。

お待たせしました、その4でございます!
今回は取り込み要素はありませんでしたが、
次回あたりで犠牲者2号目ですかね…♪

40万ヒットのお祝いコメント、
ならびにリクエスト企画へ参加していただいてありがとうございました!
今回は26個のリクエストをいただきましたです、
現在までにリクエストいただいたものは、
コメント・拍手j・シークレット経由すべてお引き受けいたしましたので、
完成まで気長にお待ちくださいませです♪

冬までに…冬までには完遂できるといいな!(努力しろ
というか早く冬来ないかしら、
セミもまだ鳴いていないというのに暑くて暑くてとろけそうですわー……。(デローン
(溶けんな溶けんな

コメントのお返事の方は現在作成中です、
今回は量が多いですのでもうしばらくお待ちくださいませです!
(・ω・)
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★ プロフィール
HN:
森クマ
性別:
男性
自己紹介:
展示するのも恥ずかしい物しか置いていませんが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
(・ω・)

諸注意:
初めてきてくれた方は、
カテゴリーの『はじめに』からの
『注意書き』の説明を見ていないと
色々と後悔する可能性大です。
(・ω・´)

イラスト・小説のリクエストは
平時は受け付けておりません。
リクエスト企画など立ち上げる際は、
記事にてアナウンスいたしますので、
平時のリクエストはご遠慮くださいませ!
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更新日 2014年  1月17日
  少ないけどとりあえず新規イラストに変更
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