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檻
 
大通りから離れ、
二匹はさっきの場所とは違う裏道を歩いていく、
そして行き止まりまで来ると、
道の真ん中にぽつんとあるマンホールの蓋をこじ開け、
二匹は迷いもせずに地下へと降りて行った。

カメ「それにしても、何でいつもこんなとこから出入りしなくちゃいけないんだろうな。」
ニド「俺たちみたいなのが目立たないためには、地下に潜った方がいいからだろう。」
カメ「だからって、毎回毎回こんな下水道通らなくても…。」
ニド「文句言うな。」

ぶーぶーと文句を言っているカメールを放っておき、
ニドキングは下水道の壁に設置されているスイッチのようなものをいじる。
すると、
下水道には似つかわしくない大きな扉が姿を現した。

「ケケッ、おかえり。」

ニドキングが扉を開けようとすると、
ふいに後ろから甲高い声が聞こえてきた。
彼らが振り返ると、
暗がりから一匹のゲンガーがニタニタと笑いながら姿を見せた。

カメ「なんだゲンガ―か、そんなとこで何してんの?」
ゲン「なんだとはご挨拶だなカメール、門番が入口のそばにいて悪いのかよ。」
ニド「普通門番は入口の前にいると思うが…。」

ゲンガ―が現れた暗がりは彼らの立っている扉からけっこう離れている、
ニドキング頬をぽりぽりと掻きながら言うとゲンガーはふんと鼻を鳴らす。

ゲン「どこにいても同じだろ、こんなとこくるのは組織の奴しかいねえんだからよ。」
カメ「そりゃそうだ、こんなとこ誰も好き好んでこないよ。」

カメールは下水道の中を見渡しながら言う、
そこらへんにポイ捨てされたゴミなどが浮いていてはっきり言って汚い、
好き好んでくる方がどうかしている場所だった。

ゲン「それでもたまに物好きな連中が入り込んでくるのさ、さっきも一匹迷い込んできて…げっぷ、おっと悪いな。」
ニド「…。」

しゃべっている途中にゲンガーが下品にゲップをし、
ニドキングが露骨に嫌そうな顔をする。
どうやら迷い込んだポケモンは、
今はこのゲンガーのお腹の中に迷いこんでいるらしかった。

ニド「あまり街のポケモンを食べるな、それでは俺たちはただの無法者と変わらないぞ。」
ゲン「ああん、別に一匹や二匹ぐらいだったらかまうこともねえだろ。」
ニド「…。」

ニドキング、
彼は確かに組織の考え方には反対してはいない。
だが、
どんなに理由を掲げても、
ポケモンを食べるということは許されるべきではないということくらい分かっていた。
だから彼はポケモンを食べることは必要最小限にとどめている、
それはポケモンを喰らう彼自身の戒めであり、
同時に自分が食べてきたポケモン達への贖罪でもあった。
だからこそ、
ゲンガーのように無作為に襲っては食べるような奴を、
放っておけるような性格ではなかった。

ぎりっと奥歯を噛みしめゲンガーに詰め寄ろうとすると、
カメールが二匹の間に割り込むように入ってくる。

カメ「ほらほら二人とも喧嘩しないの!」
ニド「だが…。」
ゲン「ケッ、全く何を怒ってるんだか。」
カメ「ゲンガーもあんまり挑発しないでくれよ、なだめるのはオイラなんだから。」

カメールはニドキングを抑えながらゲンガーに文句を言う、
気は収まらなかったが、
カメールが二匹の間から離れない以上彼も傷つけてしまう可能性もあるため、
ニドキングは鼻を鳴らすとゲンガーから顔をそむけた。

カメ「ほらゲンガ―、オイラ達早く基地の中に入りたいんだからいつものをちゃっちゃとやっちゃってよ。」
ゲン「ケッ、分かってるよ…。」

ゲンガーも不満そうに鼻を鳴らすと、
カメールとニドキングの前に立ち大きな赤い目で二匹の目を睨みつける。
すると、
ニドキングはまるで頭の中を揺さぶられるような不快感に包まれる。

ニド「うぐ…。」

ゲンガーの技【さいみんじゅつ】、
本来相手を深い眠りに落す補助の技だが、
ニドキングは頭がずきずきするようなひどい気分になる。
最近、
『丸呑み団』のメンバー全員が外から基地に戻ってくると、
こうしてゴーストタイプの【さいみんじゅつ】を耐えきるというのが全員に課せられていた、
なんでも普段からこうして技に耐える訓練をし続け、
外でのバトルのときに有利になれるようにするためだと彼らは聞いていた。

ゲン「終わったぜ。」
カメ「ふぁあ~、もう終り?」

ゲンガーの言葉とともにニドキングの頭痛がすぅーっと消えていき、
隣でカメールが眠そうに大きな欠伸をする。

ゲン「ほら、もう基地の中に戻っていいぜ。」
カメ「あいよ、ほら行こうニドキング!」
ニド「あ…ああ。」

ゲンガーに別れを告げ、
がちゃりと扉を開けると二匹は薄暗い廊下のような通路に入っていく。
ニドキングはまだ少しがんがんとする頭を押さえ、
先を歩くカメールをとぼとぼと追いかける。

カメ「どうしたんだ?」
ニド「さっきの【さいみんじゅつ】、あの訓練いつまで続くんだ…?」
カメ「そんなのオイラが知ってるわけないだろ。」

ニドキングがふるふると頭をふるうと、
さっきよりは若干痛みが引いた気がした。
カメールが心配そうに見つめているが、
幸いすぐそこがニドキングの部屋だった。

ニド「悪い、少し部屋で休んでいくよ。」
カメ「え、でももうすぐ夕飯だよ?」
ニド「少し休んだら行くから、悪いが先に行っていてくれ。」
カメ「…分かったよ。」

カメールにはなぜニドキングがいきなり気分悪そうにしているか分からなかった、
さっきの話し方からするとゲンガーの【さいみんじゅつ】のせいっぽかったが、
別にカメールはあの技を受け続けて感じる感想は「眠い」の他にはなかった。
ニドキングがよろよろしながら部屋に入るのを見届けると、
カメールは首をかしげながら暗い通路の先へ歩いて行った。


ニド「ふぅ…。」

部屋に入ったニドキングは思いため息を吐いて、
しめたドアに寄り掛かる。
彼の部屋は簡素なベッドと机、
壁には小さな本棚とむき出しの通風口と、
なんんとも殺風景な作りをした部屋だった。

部屋を見渡しているとまた少し頭が痛んでくる、
最近ゲンガーの【さいみんじゅつ】を受けるたびに感じるこの不快感、
どうもここまで気分が悪くなっているのは自分だけのようである。

ニド「まったく、何なんだろうな…。」

いつの間にかかいていた冷や汗をぬぐうと、
突然部屋の奥でガタガタという音が鳴り響く。

ニド「…そうだった、忘れていたな。」

ニドキングの部屋の奥に、
四角い鉄製の檻が三つ並んで置かれていた。
三つの檻のうち、
一つにはなにも入ってはいなかったが、
残りの二つにはそれぞれ一匹づつ黒と水色の毛並みをしたポケモンが入っていた。

彼らは『コリンク』と『ルクシオ』、
ついこの間ニドキングとカメールで捕まえたおたずねもののポケモン達である。
この二匹ともう一匹、
『レントラー』というポケモンの三匹で街で悪さをしていたポケモン達であった。
本来なら捕まえたポケモン達は食料として組織に手渡すのだが、
ニドキングの頼みで彼らを捕まえたことは組織に秘密にしているのである。

ニド「いつもならさすがに組織に隠したりはしないんだがな…。」

ニドキングがこの三匹を助けた理由、
それはこの三匹が兄弟であったからであった。
彼にも同じ組織の中に年の離れた兄弟が一匹いた、
もうずいぶん長いこと顔を合わせてはいなかったが、
彼にとって唯一残された家族であり、
何が何でも守り抜きたいポケモンの一匹であった。

ニドキングは机の上に置いておいた鍵を取ると、
ルクシオの入った折に近づいていく。
檻の中にいるルクシオは、
威嚇するようにニドキングを睨みつけてくる。

ニド「怯えるな、安心しろ順番にお前たちを出してやるからな。」

ニドキングは捕まえたこのポケモン達を、
彼の部屋にある通風口を使って逃がしていた。
しかし、
一度に多くのポケモンを逃がせばさすがに組織のポケモン達にばれてしまう、
そのため年長の者から順に日替わりで逃がしていたのである。
昨日彼らの兄であるレントラーを逃がし、
今日このルクシオを外へ逃がす。
そうすれば幼いコリンクでもなんとか兄弟たちとともにこの基地から逃げ出せるだろう。

ニドキングはぼーっと物思いにふけっていた自分に気づき、
またぷるぷると顔を振るう。
どうも最近こんな風にぼーっとすることが多くなった気がする、
これも【さいみんじゅつ】のせいなのだろうか…?

ニド「さて……え?」

ニドキングはルクシオの檻の鍵を開けようと、
ルクシオの入った檻に目を向ける、
しかし、
檻の中にはルクシオの影も形も残ってはいなかった。

ニド「え…あれ…?」

ふと見ると、
さっきまで彼の持っていた檻の鍵がルクシオの檻のすぐそばに落ちている、
もしかして彼がぼっーとしている間にルクシオが鍵を奪い取り、
勝手に檻を開けて逃げてしまったのだろうか。

ニド「まさかな…。」

だが現実にルクシオの姿がない以上、
少なくとも逃げてしまったのは間違いないだろう。
最後の檻の中にはまだ怯えていたままのコリンクが残っており、
どうやら兄弟まで助けている時間はなかったようである。

ニド「仕方ない、お前は明日出してやるからな。」

ニドキングは安心させるように優しい声をコリンクにかけると、
ふぁっ…と大きな欠伸をしベッドに横になる。
ゲンガーの技が今頃効いてきたのか、
横になったとたんうとうととニドキングは深い眠りに落ちて行った。

ニドキングが静かに寝息を立てる中、
コリンクは檻の中でひとりぼっちで震えていた。
その表情はまるで見てはいけないものでも見たかのように、
歯をカチカチと鳴らしながら静かに震えていた。

その2です、
てか長い、
予想以上に長い、
気がついたら日付変更してました。

シリーズものを書いていると、
どうしてもお話が長くなっちゃうのでけっこう区切りをつけて書いているんですが、
今回のお話、
区切りどこが分かんなくて思いつくまま書いちゃった(テヘ♪(テヘ♪じゃねえ!

まあ、
こんな日もあるさということで、
…だめ?
(・ω・;)

追記:
ゲンガーがゲンガ―になっていたのを修正、
てかどんな変換間違えかと。
げんがーを返還するとゲンガ―ってなっていた不思議、
どういうことなの?
(・ω・`;)
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HN:
森クマ
性別:
男性
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展示するのも恥ずかしい物しか置いていませんが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
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更新日 2014年  1月17日
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